多くの女性が苦しむ月経関連症状。中学・高校での健康教育で治療へのアクセス向上を。

サマリー

  • 月経困難症やPMS・PMDDといった月経関連症状で苦しむ人は多く、生産性の低下や労働損失の発生といった様々な悪影響をも及ぼしているが、症状を治療・緩和している人は少ない。
  • 月経関連症状について認知していないことや、低用量ピルや婦人科への偏見・心理的抵抗感があることが治療の障壁となっている。
  • 米国では13歳から15歳までの間に産婦人科受診が推奨されており、日本でも適切に医療に繋げるために中学校・高校で月経関連症状や女性の健康に関する教育を行うべきである。

詳細

月経困難症や月経前症候群、月経前不快気分障害(以下、まとめて月経関連症状とする)に苦しむ女性は少なくありません。晩婚化・出産回数の減少といった近年の女性のライフスタイルの変化に伴う理由から、一生涯を通じての月経回数は推定450回以上へ増加しており[1]、月経関連症状の問題はますます重要性を増しています。

 月経困難症とは、月経期間中に、月経に随伴して起こる病的症状です。下腹痛や腰痛、腹部膨満感、嘔気などの症状が見られます。月経困難症は2つに分類され、子宮筋腫や子宮内膜症などの器質性病変が骨盤腔内に存在するものを器質性月経困難症、器質的病変が認められないものを機能性月経困難症と呼びます。平成 12年度「リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)からみた子宮内膜症等の予防、診断、治療に関する研究」(主任研究者 武谷雄二)によると、鎮痛剤を飲むと日常生活が普通に行える程度の月経痛がある女性は26.8%、鎮痛剤服用にも関わらず日常生活に支障をきたしている女性は6%でした。また、2%の女性は月経時に寝たきりのような状態になっていることが分かりました[2]。つまり、一般女性のうち約3分の1は月経時に何らかの医学的介入を要しているといえます。

月経前症候群(Pre Menstrual Syndrome:PMS)は精神・身体症状を問わず、月経前の黄体期に何らかの症状をきたし、それが月経とともに消失するものを指します。そして、月経前不快気分障害(PMDD)はPMSの重症型ともいわれる、精神症状が主体のものを指します[3]。

 月経関連症状は様々な悪影響をもたらします。その一つが生産性の低下です。2018年の日本医療政策機構の行った調査では、月経関連症状によって元気な時の状態と比較して仕事のパフォーマンスが半分以下になる人が半数でした[1]。月経関連症状によって生産性が低下したり、仕事を休んだりするため、労働損失が生じており、その額は日本全体で4911億円と推計するものもあります[4]。また、学業成績への悪影響も確認されています。全国の高等学校123校を対象として行われた調査では、女子生徒全体の62%が、月経のため勉強や作業の能率が下がることを経験していることが分かりました[5]。エチオピアのデブレベルハン大学の学生307名を対象とした調査では、月経困難症である学生の60.4%が 、痛みや集中力の低下、授業の欠席により学業成績に影響があると報告しました[6]。さらに、自殺未遂やうつ傾向との関連も報告されています[7]。

 このように様々な悪影響を及ぼす月経関連症状ですが、症状の治療・緩和は可能です。機能性月経困難症に対して低用量または中用量ピルを用いたメタ解析では、OC群がプラセボ群に比べてオッズ比2.99 (95% CI 1.76, 5.07)で月経痛改善効果が高いことが示されています[8]。

 それにも関わらず、治療している人は多くないのが現状です。厚労省の「働く女性の健康に関する実態調査結果」では、症状の程度別にその対応(複数回答)について調査しています。これによると、症状が「ひどい(薬を服用すれば仕事ができる程度)」と回答した人のうち22.8%しか産婦人科を受診しておらず、「かなりひどい(薬を服用しても会社を休むほど)」と回答した人ですら、64.8%しか産婦人科を受診していませんでした[9]。

 月経関連症状に苦しんでいるにもかかわらず、なぜ治療しない人が多いのでしょうか。その原因は大きく分けて2つ考えられます。

 第一に、そもそも月経関連症状を認知していないからです。北海道のある大学の女子学生763名を対象としたアンケート調査では、月経困難症について74.0%、PMSについて72.8%の人が「聞いたことがない」と回答していました[10]。また、知っている人であっても、改善策まで知っていたのはそれぞれ3割ほどにとどまりました。別の女子短期大学生を対象としたアンケート調査でも、月経痛があっても産婦人科にかからない理由として最も多かった回答は「生理痛は病院にかかるまでもないと思っている(48%)」でした[11]。このように、月経関連症状を認知していないために、治療しようと思わない人は少なくないと考えられます。

 第二に、婦人科受診への心理的抵抗、低用量ピルへの誤解や偏見があるからです。15~49歳の日本人女性の、婦人科を受診しない女性500人を対象としたアンケート調査では、婦人科を受診しない理由として、「必要がない(46.8%)」に次いで、「心理的抵抗がある(17.8%)」が挙げられました[12]。心理的抵抗の中で最も多かったのは「内診に抵抗がある(7.8%)」で、他には「月経痛を主訴として受診するのが嫌だ(4.6%)」「副作用が怖いのでピルを使いたくない(1.0%)」等が挙げられていました。また、生理日予測を始めとする、女性のための健康管理アプリ「ルナルナ」利用者を対象とした調査では、「ピルの服用を検討したことはあるが、服用したことはない」と回答した人の、ピルを服用しない理由は「何だか怖いから」が22.1%と最も多く、次いで「お金がかかるから(15.7%)」、「副作用が起きるから(14.4%)」と続きます[13]。

 しかし、低用量ピルの処方に内診は必須ではありません。日本産婦人科医会「OC・LEPガイドライン」によれば、処方前に行うべきことは問診・血圧検査・身長体重測定のみです[3]。WHOも、内診や乳房検査は安全性や効果に大きく影響しないため、ルーチンに行うことを推奨していません[14]。

 また、低用量ピルの副作用に関しては、確かに静脈血栓塞栓症の発症リスクが上昇するという副作用はあります。しかし、低用量ピル非服用者の静脈血栓塞栓症の発症頻度が1~5人/10000人・年間であるのに対し、服用者の発症頻度は3~9人/10000人・年間に上昇することが報告されています。ただし、この値は、妊娠中(約5〜20人 / 10,000人・年間)および産後期間(40〜65/ 10,000人・年)と比較するとかなり低いものです[15]。なお、肥満・喫煙者・高齢者・家族歴のある者はリスクがさらに上昇するため、禁忌とされています。

 

 このように、病態を認知していないことや、婦人科や低用量ピルについて誤解や偏見があることが治療の障壁となっている可能性は高いです。したがって、月経関連症状とその治療法について多くの人に知ってもらい、婦人科や低用量ピルへのアクセスを向上させる必要があるのではないでしょうか。

 最も多くの人に、かつ一斉に指導できる場としては学校だと考えられます。また、アメリカ産婦人科医会は13歳から15歳までの間に婦人科を受診することを推奨しています。これは、13歳から15歳までの間に産婦人科医と信頼関係を築くことで、月経のコントロールや妊娠予防、性感染症、性的指向といった、リプロダクティブヘルスに関するトピックについて指導・助言ができるためということが理由です[16]。このことからも、学校で教えるのが望ましいと考えられます。

 現在、小中学校・高校では月経についての教育が行われていますが、月経関連症状やその対処については教えられていません。月経教育の受講内容について調べた調査では、月経の仕組みについて指導された人は多い(84.5%)ですが、月経痛の対処法(23.1%)や月経の記録(19.9%)といった月経の状況を 観察するための項目や、自己管理のための項目は少ないことが分かります[17]。

 中学校・高校で月経関連症状やその対処に関する正しい知識を知ることで、婦人科を受診し、低用量ピルを服用する人は増えると考えられます。実際に、2007年に台湾の専門学校生を対象として行われた研究では、月経についての知識や対処法に関する講義やディスカッション、パンフレットの配布といった教育介入を行ったところ、月経についての知識スコア、症状があるときのセルフケアが有意に改善したと報告されています[18]。また、ヘルスリテラシーの高い人の方が、そうでない人に比べて、月経異常時に約 2.8 倍、市販薬や医師の処方薬を飲む、医療機関を受診する等の対処行動をしていたという調査結果[1]からも、月経関連症状とその対処法について指導することで、より適切な対処行動をとる人が増えることが期待されます。

 女性の健康教育を推進する既存の取り組みとして、「女性の健康教育推進プロジェクト かがやきスクール」があります[19]。これはバイエル薬品株式会社とオムロンヘルスケア株式会社が社会貢献活動の一環として行っている出張授業形式の教育プロジェクトです。授業プログラムの内容は月経のトラブルと対処法から子宮内膜症などの婦人科疾患まで、女性の身体と健康に関するものです(下図)。プログラム内容には月経関連問題や妊娠に関することだけでなく、婦人科のかかり方、性感染症の予防、女性のがん、ライフイベントやワークライフバランスなども含まれています。これは、女性の健康を目的に中高生へのアプローチを提案するアメリカ産婦人科医会の提言にも沿った内容になっています。現在は申込みがあった高校の中から1年あたり20校を対象として出張授業を行っています。このような取り組みを活用する形で実施するのが効果的と考えられます。

 

「女性の健康教育推進プロジェクト かがやきスクール」授業プログラムの内容

画像出典:https://www.kagayaki-school.jp/program/index.html

 月経関連症状の認知度の低さ・婦人科や低用量ピルについての誤解や偏見といった治療の障壁を解消するためには、正しい知識を学ぶ機会が不可欠です。月経関連症状とその対処法に関する教育を受けることで、適切な医療に繋がり、症状に苦しむ人を減らすことができます。中高生の間の産婦人科受診と健康教育は、女性の健康問題ひいては、月経関連症状による生産性の低下や労働損失の発生、学業への悪影響など、様々な弊害も減らすことができると考えられます。

本稿は早稲田大学法学部のTが執筆しました。

本件に関するお問い合わせについて

瀧本ゼミ政策分析パートでは、この問題について調査および解決策の実行を進めております。本件に関するお問い合わせは、tsemi.seisaku@gmail.com までお願いいたします。

参考文献

[1]特定非営利活動法人日本医療政策機構.(2018).「働く女性の健康増進調査2018」https://hgpi.org/wp-content/uploads/1b0a5e05061baa3441756a25b2a4786c.pdf

[2]平成 12 年度研究報告書 厚生科学研究(子供家庭総合研究事業)「リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健 康)からみた子宮内膜症等の予防、診断、治療に関する研究」主任研究者 武谷雄二 分担研究報告書「勤労女性の就労を妨げる諸因子ならびに月経困難症等の勤労女性の就労に及ぼす影響」 堤治、寺川直樹、星合昊

[3]日本産婦人科医会(2015)「OC・LEPガイドライン」 https://pill-senpai.com/wp-content/uploads/2018/10/oc-lep-guidelines.pdf 

[4]Tanaka, E., Momoeda, M., Osuga, Y., Rossi, B., Nomoto, K., Hayakawa, M., … & Wang, E. C. (2013). Burden of menstrual symptoms in Japanese women: results from a survey-based study. Journal of medical economics, 16(11), 1255-1266.

[5]働く女性の健康増進のためのプロジェクト・バイエル薬品株式会社(2019)「中学生・高校生のために今こそ必要な女性の健康教育」https://byl.bayer.co.jp/html/pdf/collaboration/jyoseinokenkokyouiku.pdf
[6]Derseh, B. T., Afessa, N., Temesgen, M., Semayat, Y. W., Kassaye, M., Sieru, S., & Ketsela, K. (2017). Prevalence of Dysmenorrhea and its Effects on School Performance: A Cross-sectional Study. Journal of Women’s Health Care, 6, 1-6.

[7]Mandell, A. J., & Mandell, M. P. (1967). Suicide and the menstrual cycle. Jama, 200(9), 792-793. 

[8]Wong, C. L., Farquhar, C., Roberts, H., & Proctor, M. (2009). Oral contraceptive pill as treatment for primary dysmenorrhoea. Cochrane Database of Systematic Reviews, (2).

[9]厚労省 「働く女性の健康に関する実態調査結果」https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/common/pdf/0_5_3.pdf

[10]齋藤和佳子, 中野沙保, 芝木美沙子, & 笹嶋由美. (2008). 大学生の PMS と月経困難症に関する調査. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 58(2), 95-107.

[11]明楽 重夫(2013)「わが国における月経困難症・子宮内膜症の実態と受診行動の現状 ―女子大生アンケートから―」http://www.endometriosis.gr.jp/non-member/kaishi/kaishi34pdf/07-sympo1.pdf

[12]Tanaka, E., Momoeda, M., Osuga, Y., Rossi, B., Nomoto, K., Hayakawa, M., … & Wang, E. C. (2014). Burden of menstrual symptoms in Japanese women–an analysis of medical care-seeking behavior from a survey-based study. International journal of women’s health, 6, 11. 

[13]株式会社エムティーアイ「低用量ピルについて」の調査結果 ~正しい理解と服用で、生理痛・PMSの解消の新たな選択肢としても!~https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000198.000002943.html 最終閲覧2020年4月19日

[14]World Health Organization(WHO).(2016).Selected practice recommendations for contraceptive use:Third edition 2016

 https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/252267/9789241565400-eng.pdf

[15]Committee on Gynecologic Practice. (2012). ACOG Committee Opinion Number 540: Risk of venous thromboembolism among users of drospirenone-containing oral contraceptive pills. Obstetrics and gynecology, 120(5), 1239.

[16]Committee on Adolescent Health, A. C. O. G. (2006). ACOG Committee Opinion. Number 335, May 2006: The initial reproductive health visit. Obstetrics and gynecology, 107(5), 1215.

[17] 辻本裕子, 末原紀美代, 柏戸弘子, 斉藤早苗, & 末原律子. (2011). 青年期女性の月経に関する知識・行動の実態と健康教育の課題. 公益財団法人大同生命厚生事業団第 16 回 「地域保健福祉研究助成」 報告集, 202-206. http://www.daido-life-welfare.or.jp/research_papers/21/welfare_42.pdf

[18]Chiou, M. H., Wang, H. H., & Yang, Y. H. (2007). Effect of systematic menstrual health education on dysmenorrheic female adolescents’ knowledge, attitudes, and self-care behavior. The Kaohsiung journal of medical sciences, 23(4), 183-190.

[19]「女性の健康教育推進プロジェクト かがやきスクール」公式サイトhttps://www.kagayaki-school.jp/info/index.html 最終閲覧2020年5月24日

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