「瀧本ゼミLGBTプロジェクトについて専門家の先生からコメントをいただきました (釜野さおり先生 国立社会保障・人口問題研究所 人口動向研究部第2室長)」

現在、瀧本ゼミでは、エビデンスベースでLGBT施策を考えると題して「瀧本ゼミ×LGBTプロジェクト」を実施しております。https://t-semi.jp/lgbtproject/
 これまで独自調査により、同性パートナーシップ制度の導入により自殺率が約10.8%減少することを示した他(https://t-semi.jp/2019/09/09/lgbt/)、質問紙調査により同性パートナーシップ制度が性的マイノリティのメンタルヘルスや社会参画、あるいは性的マイノリティへの偏見の有無に与える影響を調査中です。
 本インタビューでは、これまで大阪市の協力を得て性的指向と性自認のあり方に関する全国最大規模の無作為抽出調査などを行われ、今回瀧本ゼミで行っている性的マイノリティを対象とした質問紙調査の設計に関してアドバイスを頂いた国立社会保障・人口問題研究所の釜野さおり先生に統計的調査を行う上で注意すべき点や今回の調査の意義についてお伺いしました。
ゼミ生:今回はインタビューを引き受けていただきありがとうございます。釜野先生はこれまでセクシュアリティという統計的調査で扱いにくいテーマに取り組まれてこられたと思うのですが、このような問題を統計的に調査することにはどのような意義があるのでしょうか。
釜野先生:私はもともとインタビュー調査なども行っていたので、統計的調査に限らず、様々な方法でアプローチすることが重要だと思います。質的調査はもちろん、文学や映画の分析など、それぞれによって明らかになることがあります。一方で、データによって明らかになることで理解を得られるケースも多くあります。特に、政策決定の場面では、定量的データの重要性が増してきているように感じています。例えば、今回の調査のように、同性パートナーシップ制度の導入とメンタルヘルスの改善や社会参画の増加の関係など、様々な要因の関係性を明らかにできる点が統計的調査の強みですね。

ゼミ生:瀧本ゼミでは長く科学的根拠に基づいた政策立案(Evidence-based policymaking,EBPM)を行ってきましたが、確かに政治家の方もエビデンスを重視されているように感じます。では、統計的調査を行う上で注意すべき点はどのようなものがあるのでしょうか。

釜野先生:統計データを用いるメリットは全体像を把握する点にありますが、反対に、現実に起きている細部を見落としてしまうデメリットもあります。例えば、セクシュアリティは他人が決めるものではなく本人がどのようなアイデンティティを持っているかやその人の感情や行動も重要なので非常に多様なわけですが、データで分類しようとすると捉えきれない部分も生じてしまいます。実際、過去に性的マイノリティに関する調査を行った際には、本人のアイデンティティを聞いたところ、こちらが用意した選択肢以外の「その他」の欄に本当に様々な回答がありました。しかし、細部が抜け落ちてしまうのは当然なことなので、データでざっくりと全体像を捉えて、事例研究や別の研究方法で細部を補っていけば、知識が積み重なり様々な側面を見ていくことができると思っています。

ゼミ生:統計的調査を行うことで、数字が独り歩きしてしまうこともあると思うのですが、普段の調査では何か配慮をなされているのでしょうか。例えば、今回の調査だと、一般的に性的マイノリティはメンタルヘルスが良好ではないと逆にスティグマを助長してしまうこともあり得るのではないかと懸念していました。

釜野先生:それは非常に重要な問題です。たとえばトランスジェンダーの方のメンタルヘルスが悪いという結果を出すと、その結果だけを表面的に見られてしまい、逆にスティグマになってしまうことはあります。そのため普段から結果を公表するときは誤解が起きないよう細心の注意を払っています。もちろん多くの人はそのように調査結果を捉えることはなく、もとから差別的な人が調査結果を都合の良いように使っているだけではあります。メンタルヘルス悪化や収入などの差異が生まれる原因である、いじめや差別がなくなれば、そのような差はなくなるはずですし、意識や制度、社会を変えていけるように取り組んでいかないといけないですね。

ゼミ生:似たような話で、ゲイに対する雇用差別があり賃金格差があったのですが近年性的マイノリティに寛容になりつつあり、むしろゲイの方が異性愛者よりも年収が高くなっているというアメリカの研究を見たことがあります[1]。今回、私たちはまさに同性パートナーシップ制度が性的マイノリティへの寛容さをもたらしメンタルヘルスの改善や社会参画の増加に繋がるのではないかという仮説を持って調査を始めました。

釜野先生:とても良い取り組みだと思います。同性パートナーシップ制度を導入した地域で聞き取り調査を行い、それぞれの人のストーリーを明らかにすることも大事ですが、統計的調査を行い定量的にどのような効果があったのか明らかにしていくことで、性的マイノリティや同性カップルに対するネガティブなイメージが減り、良いメッセージになると思います。今はパートナーがいない人や、若い人・子どもにとって、こういうライフスタイルも認められるんだというメッセージになりますよね。さきほど話したように、定量的に示されることにより理解してくれる人がいるので、その人たちがこれまで想像できなかったことが想像できるようになるのが、今回の調査の意義の一つだと思います。

ゼミ生:若い人や子どもに対するメッセージというのは大事な視点なのかもしれません。多様なセクシュアリティがあることが当たり前な社会規範に変わった段階で生まれてくる人たちにとっては、そのような状態が当たり前になので差別や偏見も起きにくくなりますよね。

釜野先生:そうですね。同性パートナーシップ制度の重要性の一つとして「同性パートナーというものが存在する」ことを周知させられることがあります。多くの人は明らかな差別意識を持っているとは限らず、無意識のうちに性的マイノリティが生きづらい雰囲気を作ってしまっているのが現状です。見えない差別、というものですね。例えば、結婚や出産でも、異性愛の人が結婚式を賑やかにやったり子どもが生まれて喜び合ったりするのを「同性カップルに対する差別だ」と言うは難しいかもしれません。しかし、皆がお祝いされる、あるいは誰もお祝いされないという状態なら良いのですが、強い異性愛規範があって、一部の人だけが祝福されていることで、疎外感が生まれ、苦しい思いをしている人がいます。当然、同性パートナーシップ制度一つではとても太刀打ちできないですが、それでも行政が異性愛以外のあり方を認める制度を用意することが重要だと思います。今回の調査が、異性愛とシスジェンダーがもつ特権を明らかにし、それらが当然視されている社会構造を変えていくきっかけになることを願っています。

ゼミ生:ありがとうございます。統計的調査では捨象されてしまう部分やデータが独り歩きしてしまう点に気をつけつつ、引き続き調査を進めていきたいと思います。

出典

[1]Carpenter, C. S., & Eppink, S. T. (2017). Does it get better? Recent estimates of sexual orientation and earnings in the United States. Southern Economic Journal, 84(2), 426-441.

ぜひフォローください!

瀧本ゼミの活動が気になる方へ

瀧本ゼミは、ビジネスと政治という2つの領域へのリサーチを通して、非情で過酷な現代社会を生き抜くための意思決定の方法を学ぶゼミです。現状を分析し、自分なりの仮説に基づいて計画を立て、その計画を実行し、その結果を受けて仮説と計画を修正し、再び実行する。このサイクルは、私たちがこれから現代社会を生き抜いていくために、あらゆる場面で必要とされます。ビジネスと政治という答えのない領域を前にして、各人なりの問題への取り組み方、不定形に動き続ける現実へのアプローチの方法を確立するべく活動しています。議論が好きな方、知的好奇心溢れる方、成長したい方にオススメの自主ゼミです。