カフーリゾート前総支配人(現:株式会社エフネス取締役CHRO/CHO)荒井達也さんがダイバーシティを尊重する理由とは?

現在、瀧本ゼミでは、「エビデンスベースでLGBT施策を考える」と題して「瀧本ゼミ×LGBTプロジェクト」を実施しております。

これまで独自調査により、同性パートナーシップ制度の導入により自殺率が約10.8%減少することを示したほか、性的マイノリティ3000人を対象とした質問紙調査により同性パートナーシップ制度がメンタルヘルスや社会参画に与える影響を調査中です。
更に、セクシャリティなどダイバーシティを尊重することが経済を活性化するという報告もあり[1]、ダイバーシティの尊重が経済に与える影響についても明らかにしていく予定です。

そこで今回は、調査に先立ち、LGBT施策をホテルの経営戦略として取り込まれているカフー リゾート フチャド・ホテルの前総支配人(現株式会社エフネス取締役CHO)荒井達也さんに、ダイバーシティの尊重が経済や企業活動に与える影響についてインタビューを行いました。

カフー リゾート フチャド・ホテルの前総支配人 荒井達也さん

ゼミ生:今回はインタビューを引き受けて頂きありがとうございます。荒井さんは、沖縄県恩納村にあるカフーリゾートの総支配人として、LGBTフレンドリーを打ち出したホテル経営をなされていらっしゃいましたが、具体的にどのような施策を行っているのでしょうか。

荒井さん:まず、スタッフへのLGBT研修を自分で行っていました。同性カップルに対する対応もそうですが、まず“知る”こと、“いるかも”を前提とした配慮を浸透させました。

私が沖縄に赴任した年に那覇市の同性パートナーシップ制度ができ、カップルの第1号の挙式は「ピンクドット沖縄」(性的マイノリティーを含む全ての人が生きやすい社会を目指す人々が、ピンク色のものを身につけて集うイベント)の中で、当時沖縄で唯一、LGBTウエディングを手掛けるカフーリゾートが行いました。

ゼミ生:観光業においてLGBTをターゲットにしたLGBTツーリズムという言葉がありますが、アメリカでは観光収入1.3兆ドルのうち5%の約65億ドル(約6500億円)をLGBT旅行客が消費していると言われ[2]、世界でもLGBTツーリズムの市場規模は約1400億ドル(約14兆円)と推計されているようです[3]。実際に、そのようなLGBT施策を行うことでカフーリゾートに来る方も増加したのでしょうか。

荒井さん:そうですね。おかげさまで、ここ数年沖縄では入域観光者数は伸び、好調ではありましたが、ホテルが乱立し、去年ぐらいからリゾートエリアが苦戦し始めましたがカフーリゾートは好調を持続しています。
今やカフーのLGBTフレンドリーなイメージは定着していて、アジアの中のLGBTフレンドリーなホテルの6つに選ばれています。わざわざキャンペーンを打つような施策をせずにも、自然に当事者だけでなく「アライ」(LGBTを理解し支援している人たちのこと)の人たちもカフーを選んでくれるようになりました。

ゼミ生:カフーリゾートでは、観光客へのLGBTフレンドリーだけでなく、従業員の職場環境においても多様性に配慮していらっしゃるのでしょうか。

荒井さん:もちろんしていますよ。性自認が違う場合、名前の呼ばれ方や制服に違和感を持っていて、自分のあるべき姿で働きたいと思っている場合、カフーでは体は女性でも心は男性なら、男性のスーツを着て働いてもらうこともできるようにしています。あとは表向きは差別がなくても、影で色々言われているのではないかということを気にしている場合もあります。そういう恐怖心をなくすために、「職場にいるかも」を前提にした教育をし、誰でもウェルカムな会社づくりをしています。
その甲斐もあって、これまで面接の時にカミングアウトしてくれた人も何人もいます。

また、LGBTに限らず、カフーは外国人雇用も19か国と積極的にしています。どの従業員も、性的マイノリティも外国人も障がいをもった方も一緒だと多様性を受け入れてくれています。ですから外国人も辞めません。中には、裏方でなく表でヒジャブ(ムスリム女性が頭を覆う布)を被って自分らしく働いてくれている従業員もいます。

今は少子高齢化が進んでいて、これからより大変になっていきます。なので、今から多様性に対応できるようにしなければいけないと思っています。超人手不足の時代で、人手が足りているホテルってほとんどないんですよ。
実は、PRIDE指標ゴールドを受賞した企業(編集者注;LGBTフレンドリーだと表彰された企業)は、その85%が大企業なんです。大企業は働きたい人はたくさんいるが、中小企業は基本的に人が足りないので、中小企業こそやるべきなのに、あまりLGBTフレンドリーに取り組んでいないのが現状です。サービス・飲食業界も少ないですね。本当はこれらの業種が一番取り組む必要があると思うのですが。私は、人が足りない結果他のスタッフに負担がかかってしまうこと、そして何より質の低下を防ぐために頑張っています。おかげ様で、日本のホテルでは私が総支配人をしていたカフーリゾートとグランデースタイルのみがPRIDE指標ゴールドを受賞しています。

 

ゼミ生:サービス業でLGBTフレンドリーが広まらないのはどのような理由があるのでしょうか。

荒井さん一番は何をしていいのかわからないのだと思います。それから「お客さんの中には当事者が店員であることを嫌がる人もいるから。」と言われたことがあります。私からすれば、そんな人はお客様じゃないと思うんですけどね。男性の風貌で女性の言動でも気にされなくなるように世論を醸成していかなくてはいけないですね。

 

ゼミ生:観光客に対しても従業員に対してもLGBTフレンドリーになるためには、一部のホテルの中だけではなく、地域全体で変わっていかないと意味がないということなのでしょうか。

荒井さん:その通りですね。ホテルの外の体験も含めて観光ですから。
まず沖縄に行きたいと思って目的地に選んでもらうためにエリアでのブランディングが必要ですね。LGBTは富裕層が多いと言われ目が肥えていますし、本物志向なので沖縄全体で多様性施策を取り入れていかなければならないと思っています。地域として自分たちが学び、多様性を受け入れていかなければならない。これはLGBTだけじゃなくて、障がいを持っている方も外国人に関しても同様です。

今後はもっとマーケットが変わっていきます。2020年に沖縄を訪れる観光客の比率は国内と海外で7:3くらいなんですが、2030年には5:5になる予測が立てられています。外国人の方が多くなっていくのだから、より、多様性施策をしっかりしなきゃいけないですね。

 

ゼミ生:荒井さんは、ホテル経営者という顔だけでなく、性的マイノリティが生きやすい社会を実現させる運動を行う支援団体「ピンクドット沖縄」共同代表を務めていらっしゃいますよね。これまで地域全体を巻き込んでいくためにどのような取り組みをされてきたのでしょうか。

荒井さん:以前、沖縄の議員の方々と面会してお話をしたことがあります。先生方は今の沖縄のLGBTに対する対応がどれほど遅れているのかに気づいたようです。そこで、県議会に話を上げてくださり、結果的に県庁観光局とビューローでもLGBT施策に取り組んでもらえるよう動かすことができました。もちろん、その前提として那覇市で同性パートナーシップ制度がすでに導入されていたということは非常に大きかったです。同性パートナーシップ制度があることで、LGBT存在がある程度可視化された状態で話が進んでいきました。もし当時同性パートナーシップ制度がなかったらかなり難しかったのではないかと思います。

また、経済同友会・県庁・JTB、ソニー、ホテル、シティバンクさんなど、大手の企業・団体にも「沖縄観光とセクシャリティーの多様性」の講義させて頂いてました。

 

ゼミ生:今お話に出てきた組織はかなり大きい組織に思えますが、観光となると地元の小さいお店もLGBTに寛容であることが必要なのではないでしょうか。

荒井さん;それはかなり問題ですよ。それで、中央の新聞だけでなく沖縄タイムズなど地域の新聞でも情報発信をしています。地域の新聞での広報をしていて嬉しかったことは、地元の散髪屋さんで「荒井さん、すごいことしてるね。LGBTのことを勉強してみるよ。」と言われたことですね。その点でも、やはり那覇市が同性パートナーシップ制度を導入してるのは大きいですよ。制度は、地元の店主さんがLGBTに配慮するべきなのかわからないときの指針となり、迷わなくて良くなります。

ゼミ生:より多くの人たちに理解してもらうには、やはり行政が認めているのが重要ということなのでしょうか。

荒井さん;沖縄のとある小学校の校長先生が、個人的に王様が二人出てくるLGBTを扱った絵本を読み聞かせしていました。それで、私たちが「紹介させてほしい」と言ったのですが、「教育委員会に伝わり怒られると困るから内密に」と言われてしまったんです。
そこで、もし全国で同性パートナーシップ制度があればブレないですよね。「那覇市ではLGBTに触れやすいけど、他の場所では触れにくい」という状況になりにくいです。

 

ゼミ生:同性パートナーシップ制度のメリットは、制度を使うカップルだけでなくて、その他のLGBTも社会に認められるという点もありますよね。

荒井さん:今年の「ピンクドット沖縄」のメイントークは、結婚の平等がテーマで、今年アジアで初めて同性婚が認められた台湾の活動家と、日本で同性婚が認められるよう活動している弁護士等とトークショーをしたのですが同じことを言っていましたね。「同性婚だけをしたいんじゃないんだ、同性婚の導入でLGBTの存在を認めることが重要だ」と。それで、私も同性婚についても前よりも力を入れるようになったのです。

正直、このような活動していることが正解なのかはわかりません。LGBTという言葉が広まる前は「もしかしてあの人ゲイなのかな?」と思われすらしなかったわけです。そう考えると全ての人にとっての正解は存在しないと思います。
ただ、それは大人の事情。子供の世界はもっと残酷です。自分の意思でどうにもならない子どもたちを守ってあげたい。私はそう思って活動をしています。

そもそも、私はある意味では会社を利用しているのかもしれません。マーケティングでLGBTを可視化する、というのはあくまでも手段として考えていて、本質的にはLGBT問題を解決したいのだろうなと思っています。

以前、アメリカの画家キース・へリングを取り扱った美術館やホテルなどのリゾート施設を運営する株式会社キースジャパンが運営する小淵沢アートヴィレッジリゾート&スパの立ち上げに携わっていました。キース・ヘリングは31歳でエイズで亡くなったゲイのアーティストだったのですが、彼が死ぬまでにやってきたことを調べたり彼の手記を読んだりしたことがありました。そうやってキース・へリングのことを調べる中で、走馬灯のように過去のことを思い出したんです。
それは小学生の頃、学校の同級生がいじめられていたんですね。その子は、体は男性でしたが女性のような言葉遣いや身振りをしていました。自分はいじめることはなかったんですが、「そんなことやめればいじめられないから」と良かれと思って言っていました。今思ったら身体は男性、心は女性のトランスジェンダーだったんでしょうね。
もう40年前のことです。誰もLGBTの認識なんかない時代です。当時、WHOもトランスジェンダーのことを「頭がおかしくて体が正しい」と言っていたんですね。私はその子を救ってあげられなかったと思い、涙が止まりませんでした。
自分の意思でどうにもならない子、そういう子たちを守ってあげたい、それが私の「アライ」としてのモチベーションになっています。

すべての人が生きやすい社会を目指してできることをやっていく。政治家の立場、弁護士にできること、企業の社長にできること。ホテルの支配人、地域のリーダー、親、学校の先生。それぞれがそれぞれの立場でやれることをやっていくことが重要だと考えました。なぜなら、多くの差別は悪気のない無知によるものなので、知ってもらうきっかけを作りハードル下げていく必要があると思ったからです。例えば、会社でLGBTに対する差別がないようにしたら、従業員の家族にも浸透していき、ゆくゆくはきっとどこかの誰かが救われる。先の先のどこかで起きる自殺を止められる。そうあってほしいと思って活動しています。

 

ゼミ生:そんなきっかけがあったのですね。瀧本ゼミでは、これまでエビデンスに基づいた政策を立案・提言してきましたが、私たちにできることとして、LGBT問題をエピソードだけでなく、エビデンスベースでも考えるきっかけを作っていきたいと思っています。

荒井さんは、現在、沖縄を離れ、株式会社エフネスでは日本ではまだ少ないCHO(チーフハピネスオフィサー)としてまた違った立場で活躍されています。本日は貴重なお話ありがとうございました!!


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参考文献

[1]リチャード・フロリダ. (2010). 『クリエイティブ都市経済論』
[2]Tanzella, J. 2012. Foreword. Global Report on LGBT Tourism. AM Reports. 3, 3.
[3]Tanzella, J. 2012. Foreword. Global Report on LGBT Tourism. AM Reports. 3, 8-9.

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