高等学校の活動開始時刻が遅いことは、長い睡眠時間・抑うつ症状の少なさ・欠席経験の少なさと関連する

本研究では、高校生が学校での活動を始める時刻と睡眠不足・精神不調との関連を分析しました。

要旨

高校生の睡眠不足は世界的に問題となっており、米国や中国、英国では始業時刻が睡眠に与える影響の分析が進んでいます。しかし日本ではこのような研究が非常に乏しいのが実情です。さらに、日本では朝の部活動などの課外活動が盛んであるなど、学校の登校時刻が非常に早い場合がありますが、始業時刻に限らず、高校生が学校で活動を始める時刻に焦点を当てた研究はありません。本研究では関東圏の高等学校2校を対象に、生徒が学校で活動を始める時刻と睡眠不足との関連、また学校で活動を始める時刻と精神衛生との関連を分析しました。性別、年齢、クロノタイプを調整した結果、1時間遅い活動開始時刻は、平日の睡眠の12.2分の増加(95%CI: -0.89分から25.36分, p<0.1)、また抑うつの8.6%の減少(95%CI: 2.41%から14.72%, p<0.01)と関連していました。さらに夜型のクロノタイプを持つ生徒では、以上のような関連が強いことも示されました。一方で本研究の限界として活動開始時刻が外生的に与えられておらず交絡を排除できていない点が挙げられるため、さらなる研究を行ってまいります。

イントロダクション

高校生の睡眠不足は世界的に問題となっています。米国の研究では学校の始業時刻を遅くすることで睡眠時間が増加する[1]ほか、精神衛生が改善する[2]、また学業成績が改善する[3]ことが報告されており、同様の研究は中国でも進められ、始業を遅らせることによる睡眠時間の増加や日中の眠気の改善といった結果が報告されています[4]。それに対応して諸外国では始業時刻を遅らせる取り組みも進みつつあり、例えばカリフォルニア州では州内の公立学校・チャータースクールの始業時刻について、中学校は8時以降、高等学校は8時半以降に制限する法案が成立しました[5]。

しかしながら日本において、高等学校における朝早い活動と睡眠・精神衛生との関連を見た研究は多くありません。長野県の中学校で朝の部活動が廃止された後にアンケート調査を実施した研究では、朝の部活動廃止後に7時間以上の睡眠をとる生徒が約3%増加したことを報告しています[6]。他には高校生の通学時間の長さや起床時刻の早さと睡眠時間との間に負の相関があることを報告した研究[7]、中学生の運動部の加入の有無と睡眠との関連を調べた研究[8]があるにとどまります。

今回私たちは、日本の高等学校2校を対象に横断研究を行いました。研究対象校では部活動などの理由で、生徒ごとに学校での活動を始める時刻(以下「活動開始時刻」)が異なっています。そこで私たちは、活動開始時刻と睡眠不足、活動開始時刻と抑うつ、活動開始時刻と欠席経験の関連を分析しました。

調査方法

生徒各自が、通常時と長期休暇時の睡眠時間帯、学校での活動の開始時刻、学校生活、心身の状態などに関する質問に回答しました。私たちは本人と保護者の同意を得た416人の生徒の匿名化されたデータを用い、睡眠時間にかかわる質問項目に一つでも無回答があった個人を除き、381人のデータを対象に分析を行いました。

表1:記述統計表

回帰式は以下の通りです。
yi01starti2chronotypei3agei4femaleii

yiは個人のアウトカム、startiは活動開始時刻、ageiは年齢、femaleiは生徒が女性なら1をとる変数です。chronotypeiはいわゆる朝型-夜型という個人の活動の時間的指向性[9]を意味するクロノタイプであり、本研究ではKitamura et al.(2014)及び田村・田中・駒田・成澤・井上(2019)を参考にMSFscを用いて計算しています [10][11]。具体的には、chronotypeiの1時間の増加は、生徒の時間的指向性が1時間夜型であることを意味します。

続いてアウトカムについて、sleep_durationiは平日の睡眠時間の長さ(単位:時間)、general_bedtimeiとgeneral_wakeupiはそれぞれ平日の就寝・起床時刻を示し、24時を0に標準化しています。depressioniはうつ・不安・イライラを感じていると回答すれば1をとる変数、absenceiは心身の不調で欠席した経験が一度でもあれば1をとる変数です。

結果

遅い活動開始時刻は、長い睡眠時間・低い抑うつ率・欠席経験の少なさと関連する
性別、年齢、クロノタイプを調整した結果、1時間遅い活動開始時刻は、平日の睡眠の12.2分の増加(95%CI: -0.9分から25.4分, p<0.1)と関連していました(表2、1列目)。また1時間遅い活動開始時刻は、抑うつの8.6%の減少(95%CI: 2.4%から14.7%, p<0.01)、欠席経験者の3.4%の減少(95%CI: 0.08%から6.8%, p<0.05)とも関連していました(表2、2・3列目)。またクロノタイプが1時間夜型であることは、平日の睡眠の12.5分の減少(95%CI: -16.9分から-25.4分, p<0.01)と関連していたほか、抑うつの3.9%の増加(95%CI: 1.9%から5.9%, p<0.01)、欠席経験者の2.6%の増加(95%CI: 0.7%から4.5%, p<0.01)とも関連していました。

表2:活動開始時刻と睡眠時間・抑うつ・欠席経験との関連

夜型のクロノタイプを持つ生徒では関連が強い
続いて生徒のクロノタイプの中央値をとり、それよりも夜型の生徒に限定して効果を見た場合についてです。1時間遅い活動開始時刻は平日の睡眠の19.0分の増加(95%CI: -2.7分から40.7分,p<0.1)と関連するほか(表3、1列目)、抑うつの17.6%の減少(95%CI: 5.8%から29.4%, p<0.01)、欠席経験者の12.5%の減少(95%CI: 1.6%から23.4%, p<0.05)とも関連していました(表3、2・3列目)。このように夜型のクロノタイプを持つ生徒で見た場合、関連が強まる傾向にありました。

表3:夜型の生徒に限定した場合の関連

遅い活動開始時刻は遅い就寝・遅い起床時刻と関連するが、後者との関連が大きい
次に活動開始時刻と、起床時刻・就寝時刻との関連を分析しました。アウトカムをそれぞれ起床時刻と就寝時刻として回帰を行った結果、1時間遅い活動開始時刻は就寝時刻の9.54分の遅れと関連し (95%CI: -1.4分から20.5分, p<0.1)、また1時間遅い活動開始時刻は起床時刻の22.9分の遅れと関連していました (95%CI: 13.9分から31.9分, p<0.01) (表4、1・2列目)。夜型のクロノタイプを持つ生徒に限定した場合、1時間遅い活動開始時刻は就寝時刻の18.4分の遅れと関連し (95%CI: -2.5分から39.3分, p<0.1)、また1時間遅い活動開始時刻は起床時刻の33.5分の遅れと関連しており(95%CI: 22.0分から45.0分, p<0.01)(表4、3・4列目)、いずれも関連が強まる傾向にあることが分かります。

表4:活動開始時刻と就寝・起床時刻との関連

本研究の限界

本研究の限界としては、第一に活動開始時刻が外生的に与えられていない点が挙げられます。そのため、例えば遅い活動開始時刻が精神衛生に正の影響を及ぼしている可能性がある一方で、精神状態が良い生徒が何らかの理由で遅い活動開始時刻を選択している可能性があります。このような交絡要因を排除し因果効果をみるためには、今後さらなる研究が必要になります。第二に本研究は横断研究であること、それからサンプルサイズもN=381と大きくはないことから、より多くの生徒を対象に継続的な研究を行うことが望まれます。

考察

本研究は日本の高校生を対象に、活動開始時刻と睡眠・精神衛生・欠席経験との関連を明らかにしました。本章では、第一に本研究で示された回帰係数について、第二に本研究の貢献について議論します。

まずは回帰係数について議論をしますが、限界点でも述べたように係数の解釈には慎重である必要があります。特に本研究では1時間遅い活動開始時刻が夜型の生徒の睡眠時間の19分の増加と関連していますが、例えば準実験的研究を行ったOwens et al. (2017)は50分の始業遅延による睡眠時間の30.1分の増加と30分の始業前倒しによる睡眠時間の14.8分の減少を報告しています[12]。従って始業を遅らせる政策の効果は本研究の係数値とは異なる可能性があり、今後の日本での介入研究の実施が望まれます。

最後に、本研究の先行研究に対する貢献について議論します。第一に、学校の開始時刻と睡眠・精神衛生との関連を分析した横断研究では初めてクロノタイプに着目した点です。過去の横断研究では、学校の始業時刻と睡眠の関連[13][14]、生徒のクロノタイプと睡眠時間の関連[15].、生徒のクロノタイプと精神衛生との関連[16]などは分析されていましたが、学校が始まる時刻とクロノタイプの両方が睡眠・精神衛生・欠席経験に与える影響についてはこれまで分析されていませんでした。本研究では夜型のクロノタイプは睡眠の減少・抑うつの増加・欠席経験の増加と関連すること、また遅い活動開始時刻は睡眠の増加・抑うつの減少・欠席経験の減少と関連することが明らかになっただけでなく、サンプルの中央値よりも夜型のクロノタイプを持つ生徒においては遅い活動開始時刻と睡眠時間・精神衛生・欠席経験の関連が強まることを、横断研究では初めて明らかにしました。

第二の貢献として、本研究はクロノタイプを考慮に入れて日本の高校生の活動開始時刻と睡眠・精神衛生・欠席経験との関連を見たという点で、管見の限りでは初めての研究になります。従って睡眠研究における意義として、Carskadon and Wolfson (1998)が始業と睡眠の関連を示して以来[17]海外で行われてきた始業時刻と睡眠に関する介入・横断研究に、日本の知見を追加するということが挙げられます。さらに政策的な意義は、日本の高校生の睡眠不足と学校の活動開始時刻が関連していることを示した点にあります。日本の高校生の睡眠不足は深刻な問題となっており、8時間未満の睡眠で定義される睡眠不足の生徒は本研究では95.8%、先行研究でも約90%と[18]、非常に高い割合を示しています(本研究で7時間以上寝ている生徒は24.9%にとどまりました)。このような睡眠不足を解決するため近年は学校のスケジュールを見直す動きも出ていますが[19]、本研究はこのような学校のスケジュールの見直しに対する示唆を示しています。

結論

本研究は、日本の高校生の朝の活動開始時刻と睡眠・精神衛生・欠席経験との関連をはじめて定量的に明らかにしました。特に夜型の生徒に関しては、活動開始時刻と睡眠・精神衛生・欠席経験との関連が大きいことも明らかにしました。
なお上記結果は日本疫学会に報告を行う予定です。

 

参考文献

[1] Bowers, J. M., & Moyer, A. (2017). Effects of school start time on students’ sleep duration, daytime sleepiness, and attendance: a meta-analysis. Sleep health, 3(6), 423-431.

[2] Owens, J. A., Belon, K., & Moss, P. (2010). Impact of delaying school start time on adolescent sleep, mood, and behavior. Archives of pediatrics & adolescent medicine, 164(7), 608-614.

[3] Carrell, S. E., Maghakian, T., & West, J. E. (2011). A’s from Zzzz’s? The causal effect of school start time on the academic achievement of adolescents. American Economic Journal: Economic Policy, 3(3), 62-81.

[4] Li, S., Arguelles, L., Jiang, F., Chen, W., Jin, X., Yan, C., … & Wang, X. (2013). Sleep, school performance, and a school-based intervention among school-aged children: a sleep series study in China. PLoS One, 8(7), e67928.

[5] Harmeet, K. (2019, October 14). California pushes back school start times for middle and high school students. CNN. (https://edition.cnn.com/2019/10/14/health/california-later-school-start-times-trnd/index.html, 閲覧日: 2019年10月20日)

[6] 西嶋紗英, & 青栁直子. (2018). 中学生における朝の部活動に関する意識調査. 茨城大学教育実践研究, 37, 273-285.

[7] Tagaya, H., Uchiyama, M., Ohida, T., Kamei, Y., Shibui, K., Ozaki, A., … & Takahashi, K. (2004). Sleep habits and factors associated with short sleep duration among Japanese high-school students: a community study. Sleep and biological rhythms, 2(1), 57-64.

[8] 松本禎明, & 藤野華奈. (2015). 中学生における睡眠と生活習慣に関する研究. 九州女子大学紀要, 51(2), 173-190.

[9] 北村真吾, 肥田昌子, & 三島和夫. (2012). クロノタイプによる睡眠覚醒パターン, 気分調節の特徴.

[10] Kitamura, S., Hida, A., Aritake, S., Higuchi, S., Enomoto, M., Kato, M., … & Mishima, K. (2014). Validity of the Japanese version of the Munich ChronoType Questionnaire. Chronobiology international, 31(7), 845-850.

[11] 田村典久, 田中秀樹, 駒田陽子, 成澤元, & 井上雄一. (2019). 平日と休日の起床時刻の乖離と眠気, 心身健康, 学業成績の低下との関連. 心理学研究, 90-18045.

[12] Owens, J. A., Dearth-Wesley, T., Herman, A. N., Oakes, J. M., & Whitaker, R. C. (2017). A quasi-experimental study of the impact of school start time changes on adolescent sleep. Sleep health, 3(6), 437-443.

[13] Paksarian, D., Rudolph, K. E., He, J. P., & Merikangas, K. R. (2015). School start time and adolescent sleep patterns: results from the US national comorbidity survey—adolescent supplement. American journal of public health, 105(7), 1351-1357.

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[17] Carskadon, M. A., Wolfson, A. R., Acebo, C., Tzischinsky, O., & Seifer, R. (1998). Adolescent sleep patterns, circadian timing, and sleepiness at a transition to early school days. Sleep, 21(8), 871-881.

[18] 片岡千恵, 野津有司, 工藤晶子, 佐藤幸, 久保元芳, 中山直子, … & 渡部基. (2014). 我が国の高校生における危険行動と睡眠時間との関連. 日本公衆衛生雑誌, 61(9), 535-544.

[19] 「中学校運動部「朝練」原則廃止8割 長野県教委調査」『毎日新聞』、2016年3月28日、電子版(https://mainichi.jp/articles/20160329/k00/00m/040/026000c 閲覧日:2019 年 10 月 16 日)

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