同性パートナーシップ制度の導入により自殺を防ぐことができる

同性パートナーシップ制度導入で自殺率が10.8%減少したことが明らかに

 2015年に渋谷区と世田谷区が同性パートナーシップ制度を導入して以来、同性パートナーシップ制度を導入する地方自治体は急速に増えていますが[1]、必ずしも同性パートナーシップ制度の実質的な効果が理解されているわけではなく、導入のメリットが不明であるという理由から導入が見送られている自治体もあります[2]。

 しかし、ジョンズホプキンス大学のライフマンらが2017年に76万人の若者を対象として行った研究によると、アメリカでは同性婚合法化により高校生の自殺企図が減少したことが明らかになっています[3]。日本でも、特定非営利活動法人虹色ダイバーシティにより行われた調査で、同性パートナーシップ制度を導入した地域では性的マイノリティのメンタルヘルスが改善したことや社会参画の度合いが上昇したことが報告されています[4]。

グラフは虹色ダイバーシティの “niji VOICE 2019” 速報より[4]

このような先行研究を踏まえ、瀧本ゼミ政策分析パートでは、アメリカの同性婚合法化同様、日本でも同性パートナーシップ制度が自殺を減少させたのではないかという仮説の下、厚生労働省が公開している全国の自殺に関する統計を用いて独自に調査を行いました1)調査の詳細に関しては後述その結果、失業率や各自治体固有の要因(既に個別の自治体ごとに実施されていた自殺対策や地域の自殺への考え方など)、対象期間中に変化した自殺に影響するであろう要因(国の自殺対策や模倣自殺を喚起するような有名人の自殺報道など)をコントロールしてもなお、同性パートナーシップ制度の導入により、自殺率が10.8%減少するという結果が出ました2)この結果は5%水準で有意。平成30年の10万人あたり自殺者数は16.3人のため、単純計算では仮に日本全体でパートナーシップ制度が認められていた場合、約2222人の方の命が救われたことになります3)平成30年10万人あたり自殺者数(=16.3)×得られた係数(=0.108) ×総人口(=126,220,000)  /100,000 で試算。既にパートナーシップ制度を導入した自治体のうち、2017年までに導入した東京都世田谷区、東京都渋谷区、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市、沖縄県那覇市、北海道札幌市の自殺率の変化率を示したグラフは以下のようになります。点線が導入した年月日を指しており、東京都世田谷区、三重県伊賀市、沖縄県那覇市では導入後自殺率の減少の傾きがより急になっていることが見て取ることができます4)札幌市では、制度変更は市で行われたもののデータは区ごとにあるため観測値が多い

今回の結果は自治体ごとの異質性を考慮しておらず平均的な効果を推定しているため、実際に各自治体ごとに防ぐことができたであろう自殺者数とは異なる可能性はあります。しかし、この結果は、アメリカの同性婚合法化により高校生の自殺企図が減少したという先行研究や日本でも性的マイノリティのメンタルヘルスが改善したという調査結果と整合的であると言えます。より厳密な結果を得るべく引き続き分析を進め、最終結果は論文として発表する予定です。

なぜ同性パートナーシップ制度で自殺を防ぐことができるのか

性的マイノリティに多い自殺

「一橋大アウティング事件」をご存知の方も多いのではないでしょうか。当時一橋大学の法科大学院生だった男性がゲイであることを同級生に暴露(アウティング)され心身に不調をきたすようになり2015年8月に校舎から転落して亡くなってしまった事件です[5]。

 この男性に限らず、一般に性的マイノリティの自殺リスクは高いことが明らかになっています。性的マイノリティの日本人男性を対象にした京都大学の日高らの研究では、15.1%の人が実際に自殺を企図したことがあったと報告されています[6]。同様に、大阪市でのサーベイ調査をもとにした研究でも、ゲイやバイセクシャルなど性的マイノリティの男性は異性愛者の男性と比べて自殺を図るリスクが5.98倍になることが報告されています[7]。

 性的マイノリティの自殺リスクが高い原因には、性的嗜好が原因でいじめやハラスメント被害を受けやすく、更にカウンセラーや医療者も性的マイノリティへの理解が乏しいこともあり適切なカウンセリングや医療にアクセスできないことにあります[8]。先の一橋大アウティング事件でも、亡くなった男性はアウティング被害の後、大学のハラスメント相談室に相談していましたが理解を得ることができなかったことも自殺の一因とされており[9]、2019年現在でも大学側と遺族の方の係争が続いています[10]。

同性パートナーシップ制度導入により性的マイノリティへのスティグマを減らすことが可能

性的マイノリティの自殺はスティグマが一因であり、自殺を防ぐためには社会全体の性的マイノリティへの偏見をなくすことが重要です。そして、同性婚の合法化はその有効な政策として機能しています。実際に、同性婚の合法化によりメディアを通して性的マイノリティの存在が可視化され[11]、その存在を知った多くの人は性的マイノリティの権利に対して寛容になることからスティグマが減少すると指摘されています[12]。コロンビア大学のハツェンブエラーらの研究では、同性婚の合法化から1年で性的マイノリティの精神疾患での病院受診が平均2.72回や精神疾患での医療費が平均304.9ドル減少し、更にその結果はパートナーいない性的マイノリティでも同様の結果が得られたことが報告されています。そのメカニズムとして、同性婚の合法化によりスティグマが減少し性的マイノリティの受けるストレスが軽減された可能性があることを挙げています[13]。一方、ハツェンブエラーらの別の研究では、アメリカの一部の州で同性婚が禁止されたことにより、パートナーの有無をコントロールしてもなお、性的マイノリティにおいて気分障害が36.6%、全般性不安障害が248.2%、アルコール使用障害が41.9%、精神疾患併存36.3%増加したことを報告しています[14]。これらの結果から、同性婚合法化により実際に婚姻制度を利用する同性愛者だけでなく性的マイノリティ全体へのスティグマが減少し、自殺企図が減少する可能性があると推察できます。

誰もが安心して暮らせる社会を実現するために

瀧本ゼミ政策分析パートでは、今回の同性パートナーシップ制度が自殺に与える効果に関する分析だけでなく、実際に同性パートナーシップ制度導入によりハラスメントやいじめ被害が減少したのか、また社会参画や政治参加が増加したのか等も明らかにする調査を準備中です(近日公開予定)。これらの調査結果をもとに同性パートナーシップ制度未導入自治体への政策提言を行い、誰もが安心して暮らせる社会の実現を目指し活動を進めて参ります。

監修

今回の分析にあたって、東京医科大学の志村哲祥先生、香港科技大学の川口康平先生にご助言を賜りました。

分析手法

使用データ

 自殺に関しては厚生労働省「自殺の統計:地域における自殺の基礎資料」より2009年1月から2019年5月までの月次自殺統計を使用しました。

 失業率に関しては総務省統計局労働力調査の都道府県別完全失業率(モデル推計値)より2009年から2018年までの年次データを使用しました。2019年に関しては同調査の4~6月の四半期速報データを年次失業率として使用しています。

 パートナーシップ制度導入地域及び導入時期に関してはOUT JAPANホームページ[15]を参考にしています。

推計方法

 上記データをもとにパネルデータを作成し、各自治体ごとの固定効果と時間効果を入れたモデルによって推定しています。標準誤差はHAC標準誤差を使用しています。

モデル:

添字のiは市区町村、tは年月を指し、SuicideRateは10万人あたり自殺者数、PartnerShipは市区町村iが時点tで同性パートナーシップ制度を施行していた場合に1、それ以外では0を取るダミー、Unempは失業率となっています。

出典

[1]安田聡子. (2019). 同性パートナーシップ制度誕生から3年半、9つの自治体が新たに一斉導入。急速に増えている理由は?, https://www.huffingtonpost.jp/entry/same-sex-partner-certificate-2019-april_jp_5ca09413e4b0474c08cfef9c (最終アクセス:2019年8月31日)

[2]nisalog – 東京都特別区議会議事録横断検索.(2018). 練馬区議会平成30年第2回定例会-06月14日−04号, https://chiholog.net/nisalog/gijilog/13120-20180614-8351864/ja (最終アクセス2019年8月13日)

[3]Raifman, J., Moscoe, E., Austin, S. B., & McConnell, M. (2017). Difference-in-differences analysis of the association between state same-sex marriage policies and adolescent suicide attempts. JAMA pediatrics, 171(4), 350-356.

[4]虹色ダイバーシティ. (2019). “niji VOICE 2019” 速報, http://nijiirodiversity.jp/niji-voice-2019_newsflash/ (最終アクセス:2019年8月31日)

[5]安田聡子. (2019). 一橋大アウティング事件から4年。LGBTQ当事者を支援する「プライドフォーラム」が同大でスタート,

https://www.huffingtonpost.jp/entry/hitotsubashi-pride-bridge_jp_5d4bcc93e4b01e44e4753536 (最終アクセス:2019年8月31日)

[6]Hidaka, Y., & Operario, D. (2006). Attempted suicide, psychological health and exposure to harassment among Japanese homosexual, bisexual or other men questioning their sexual orientation recruited via the internet. Journal of Epidemiology & Community Health, 60(11), 962-967.

[7]Hidaka, Y., Operario, D., Takenaka, M., Omori, S., Ichikawa, S., & Shirasaka, T. (2008). Attempted suicide and associated risk factors among youth in urban Japan. Social psychiatry and psychiatric epidemiology, 43(9), 752-757.

[8]NHK. (2008). 自殺と向き合う〜生き心地のよい社会のために〜同性愛者の自殺について考える, http://www6.nhk.or.jp/heart-net/mukiau/shirou3.html (最終アクセス:2019年8月31日)

[9]松岡宗嗣. (2018). 「どんな形で終わっても、兄は戻ってきません」一橋大学アウティング事件裁判で問われる大学の責任, https://www.huffingtonpost.jp/soushi-matsuoka/outing-hitotsubashi-uni-responsibility_a_23483045/ (最終アクセス:2019年8月31日)

[10]伊吹早織. (2019). キャンパスで命を落とした後輩は「まさに私」だった。卒業生が大学に“居場所”をつくる理由, https://www.buzzfeed.com/jp/saoriibuki/pride-bridge (最終アクセス:2019年8月31日)

[11]Chomsky, D., & Barclay, S. (2010). The mass media, public opinion, and lesbian and gay rights. Annual Review of Law and Social Science, 6, 387-403.

[12]Lewis, G. B. (2011). The friends and family plan: Contact with gays and support for gay rights. Policy Studies Journal, 39(2), 217-238.

[13]Hatzenbuehler, M. L., O’Cleirigh, C., Grasso, C., Mayer, K., Safren, S., & Bradford, J. (2012). Effect of same-sex marriage laws on health care use and expenditures in sexual minority men: A quasi-natural experiment. American journal of public health, 102(2), 285-291.

[14]Hatzenbuehler, M. L., McLaughlin, K. A., Keyes, K. M., & Hasin, D. S. (2010). The impact of institutional discrimination on psychiatric disorders in lesbian, gay, and bisexual populations: A prospective study. American journal of public health, 100(3), 452-459.

[15]OUT JAPAN HP.(2019). 全国9自治体で同性パートナーシップ証明制度がスタート,https://www.outjapan.co.jp/lgbtcolumn_news/news/2019/4/2.html (最終アクセス:2019年8月13日)

 

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瀧本ゼミは、ビジネスと政治という2つの領域へのリサーチを通して、非情で過酷な現代社会を生き抜くための意思決定の方法を学ぶゼミです。現状を分析し、自分なりの仮説に基づいて計画を立て、その計画を実行し、その結果を受けて仮説と計画を修正し、再び実行する。このサイクルは、私たちがこれから現代社会を生き抜いていくために、あらゆる場面で必要とされます。ビジネスと政治という答えのない領域を前にして、各人なりの問題への取り組み方、不定形に動き続ける現実へのアプローチの方法を確立するべく活動しています。議論が好きな方、知的好奇心溢れる方、成長したい方にオススメの自主ゼミです。

References   [ + ]

1. 調査の詳細に関しては後述
2. この結果は5%水準で有意
3. 平成30年10万人あたり自殺者数(=16.3)×得られた係数(=0.108) ×総人口(=126,220,000)  /100,000 で試算
4. 札幌市では、制度変更は市で行われたもののデータは区ごとにあるため観測値が多い