離婚しやすいと離婚率が下がる。同意なしの離婚を可能にして女性・子供にメリット。

サマリー

  • 夫婦仲が悪い家庭は女性と子どもに悪影響がある
  • 合意なしの離婚を可能にすると、夫婦仲が改善され結果的に離婚率が下がることがわかっている
  • 法律で合意なしの離婚を可能にし適切な社会設計を行えば、女性と子どもにメリットが生まれる

本文

現在、日本において女性によるDV相談件数は年間8000件を超えており、その数は年々増えています[1]。DV被害を受けシェルターに来る女性の4割から6割はうつ病、3割から8割はPTSDと診断されるとの報告もあります[2]。


画像出典[22]

さらにDVは子どもにも悪影響があり、例えば0歳から3歳の間にDVなど親の暴力に頻繁に触れていた子どもは、触れていなかった子どもに比べて8歳までにより攻撃的な行動が見られはじめるという報告があります。こうした悪影響のあるDVから女性が逃れる手段として離婚がありますが、離婚は女性にとって経済的な負担があり[3]、更に子どもへのデメリットもあります。離婚に巻き込まれる子どもは年間約14万人であり[4]、離婚は子どものパフォーマンス低下に繋がります。離婚を経験した女子は数学の成績が落ちたり、7〜8歳以上で離婚を経験した子どもは、離婚を経験しない子どもより読解や数学の成績が落ちるといった報告があります[5]。


画像出典[23]

以上のように、不和のある家庭や離婚は女性にも子どもにも悪影響があります。DVや離婚を減らし、より良い家庭を築くためには、どのような制度を構築するべきなのでしょうか。

離婚制度は、特に英国や米国においてその導入は早くなく、また一度結婚すると離婚しづらくなるよう設計されていました。例えば米国では19世紀に入ってようやくいくつかの理由で離婚を認める州が増えてきた程度で、離婚を認めない州もいまだにありました。さらに離婚を認めるといっても、離婚のための根拠が要求され、どちらか一方に明確な非がなければなりませんでした[6]。このような状況が20世紀に入っても続いていましたが、女性の労働が中産階級にも広く普及し女性の地位が上昇するにつれ、女性の自立の要求と家庭内での伝統的な役割分担に矛盾が生じ始め、離婚の需要及び旧来の婚姻制度への不満が増加しました[7]。もっとも、女性側からの要求で一方的に離婚することは困難であったため男性側は離婚を予期する必要はなく、また男性側の経済的有利もあり家庭内での意思決定において男性側の交渉力が強かったと考えられます。実際、Voena(2015)では米国の単意無責離婚の導入前後で家庭での意思決定プロセスにおける女性の交渉力が増加したことが報告されています[8]。
離婚がしづらい制度設計であり男性側の交渉力が強いという点では、日本においても同様の状況が発生しています。現在の離婚の約9割は協議離婚であり[9]、これには両者の同意が必要です。また離婚に踏み切る上で養育費や親権は個別に家族間での交渉が必要であり、なおかつその取り決めは法的拘束力を持ちません。こうした予測可能性の低さが離婚へのハードルをあげていることが指摘されています[10]。また調停離婚となったケースでは、財産分与や養育費、面会頻度などを巡って、交渉期間が長期化していることが知られています[11]。特に離婚後女性が親権を取ることが多く[12]、財産分与や養育費の取り決めの予測可能性が低いことにより離婚後の女性側の生活の見通しが立ちにくくなり得ます。実際、離婚を躊躇する理由の多くに経済的不安が挙げられています[13]。このような状況では、男性側は婚姻継続を前提に生活するため、家庭での意思決定プロセスにおける男性側の交渉力が強いと考えられます。
特に高度経済成長期から、日本の有配偶離婚率は上昇の一途を辿っており、過去に欧米諸国が経験したような既存の家族法制度と現実の矛盾が生じていると考えられます。


画像出典[24]

前述のような時代背景から、米国では1970年代から両者一方に過失がなくとも離婚が可能で、双方の同意も必要ない「無責離婚法」を各州本格的に導入し始めました。この無責離婚法は性別による責任の不履行への制裁を実質的に取りやめた制度変更となりました[14]。かつての離婚制度で離婚できる明確な理由として、夫の経済的支援と妻の家庭サービスという各責任の不履行があったのですが、それに対する制裁がなくなり、家庭が破綻していること自体が離婚を認める要件となりました。これは男女の役割分担という概念が離婚法上なくなり、性に関して平等な判断がなされるようになったことを示しています。このような時流から、現在米国では全ての州で無責離婚法が成立しています。
そして無責離婚法を導入したところ、離婚率が低下するという結果になりました。例えば導入州の1つであるカリフォルニア州では、離婚率は一時的に上昇しましたが、10年後には法導入以前以下まで低下しました。1968〜1988年の間の導入州28州の離婚率の平均でみても、28州導入終了から10年後には、離婚率は10年前よりも下がっています[15]。


画像出典[25]

このように離婚率が低下した原因は、単意無責離婚法により先程の夫婦の交渉力のバランスが対等になったことです。単意無責離婚の制度下では、配偶者の一方的な意思で離婚が成立するため婚姻を維持したい片方当事者は相手の婚姻継続による期待利得を上げるように生活するインセンティブが働きます[16]。実際に、米国では無責離婚法の導入後女性のDV被害や自殺率が下がりました[17]。これは今まで立場が弱かった女性が離婚という切り札を得たことで、男性の振る舞いが変わったことを示唆しています。
以上から、無責離婚制度は女性と子どもにメリットがある政策だと考えられますが、これを日本で適用する上で注意点が幾つかあります。
1つは、女性の経済的な問題です。世界経済フォーラムが発表した「The Global Gender Gap Report 2018」のなかで、日本の経済面での男女格差は調査対象149ヵ国中117位であり、いまだに相対的には格差が大きいことがわかります[18]。そして、前述の通り、離婚したいと思ったが離婚しなかった理由として特に女性に多いものに「経済的な不安から」が挙げられています[19]。女性の経済基盤が安定しておらず離婚に現実味がなければ、離婚が男性へ切り札として作用せず男性の態度が変わらない可能性があります。養育費強制徴収制度など、制度により離婚後の収入への予測可能性を上げることも一案と考えられます。
もう1つは、合意なしの離婚ができるようになることの弊害です。米国では無責離婚法導入によって、Rasul (2004)によると婚姻率低下、Bellido (2014)によると出生率低下がみられたという報告があります[20][21]。簡単に離婚できることを踏まえて結婚を躊躇うこと、離婚時に子どもが負担になりうることを考えて出産を躊躇うことは十分考えられます。
日本の婚姻制度は諸外国と比べて、離婚の際の交渉の複雑さ、養育費や面会に関する取り決めの法的拘束力がないことなどが特異的であることから、子の福祉、女性の福祉のための対策が求められます。そのためには社会全体の制度設計が必要になるでしょう。

まとめ

DVがあり夫婦仲が悪い家庭は女性と子どもに悪影響を与え、女性の身体的・精神的苦痛、子どもの学習能力低下に繋がります。
米国では同意なしの離婚を可能にする「無責離婚法」の導入で、夫婦仲が改善し、導入以前より離婚率が低下するという結果がみられました。
したがって日本でも同意なしの離婚を可能にすることで、夫婦仲が改善し女性と子どもにメリットが生まれることが考えられます。

出典

[1]http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/smph/about_mpd/jokyo_tokei/kakushu/dv.html
[2]https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-06-004.html
[3]Smock, P. J., Manning, W. D., & Gupta, S. (1999). The effect of marriage and divorce on women’s economic well-being. American Sociological Review, 794-812.
[4]https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/rikon10/02.html
[5]Anthony, C. J., DiPerna, J. C., & Amato, P. R. (2014). Divorce, approaches to learning, and children’s academic achievement: A longitudinal analysis of mediated and moderated effects. Journal of school psychology, 52(3), 249-261. 〜
[6]Weitzman, L. J., & Dixon, R. B. (1980). The Transformation of Legal Marriage through No-Fault Divorce: The Case of the United States. Marriage and Cohabitation in Contemporary Societies: Areas of Legal, Social, and Ethical Change, 143-53.
[7]利谷信義, & 稲本洋之助. (1988). 離婚の法社会学: 欧米と日本. 東京大学出版会.
[8]Voena, A. (2015). Yours, mine, and ours: do divorce laws affect the intertemporal behavior of married couples?. American Economic Review, 105(8), 2295-2332.
[9]https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003214873
[10]筒井隆志. (2008). 離婚法制の諸課題をめぐって. 立法と調査, (282), 51-65.
[11]http://www.courts.go.jp/vcms_lf/hokoku_07_gaiyou.pdf
[12]https://www.google.com/url?q=https://www.mhlw.go.jp/www1/toukei/rikon_8/repo5.html&sa=D&ust=1551921770511000&usg=AFQjCNEybvqPJznhJfyl3uJRfrrQglZVtw
[13]http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/h29danjokan-4.pdf
[14]Weitzman, L. J., & Dixon, R. B. (1980). The Transformation of Legal Marriage through No-Fault Divorce: The Case of the United States. Marriage and Cohabitation in Contemporary Societies: Areas of Legal, Social, and Ethical Change, 143-53.
[15]Wolfers, J. (2006). Did unilateral divorce laws raise divorce rates? A reconciliation and new results. American Economic Review, 96(5), 1802-1820.
[16]Wickelgren, A. L. (2007). Why divorce laws matter: Incentives for noncontractible marital investments under unilateral and consent divorce. The Journal of Law, Economics, & Organization, 25(1), 80-106.
[17]Stevenson, B., & Wolfers, J. (2006). Bargaining in the shadow of the law: Divorce laws and family distress. The Quarterly Journal of Economics, 121(1), 267-288.
[18]http://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2018.pdf
[19]http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/h29danjokan-4.pdf
[20]Rasul, I. (2004). The impact of divorce laws on marriage. Unpublished manuscript, University of Chicago.
[21]Bellido, H., & Marcén, M. (2014). Divorce laws and fertility. Labour Economics, 27, 56-70.
画像出典[22] http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/smph/about_mpd/jokyo_tokei/kakushu/dv.html
画像出典[23]Anthony, C. J., DiPerna, J. C., & Amato, P. R. (2014). Divorce, approaches to learning, and children’s academic achievement: A longitudinal analysis of mediated and moderated effects. Journal of school psychology, 52(3), 249-261. 〜
画像出典[24]http://www.courts.go.jp/vcms_lf/hokoku_07_gaiyou.pdf
画像出典[25]Wolfers, J. (2006). Did unilateral divorce laws raise divorce rates? A reconciliation and new results. American Economic Review, 96(5), 1802-1820.

本件に関するお問い合わせについて

瀧本ゼミ政策分析パートでは、この問題についてリサーチを重ねております。
本件に関するお問い合わせは、tsemi.seisaku@gmail.com までお願いいたします。

ぜひフォローください!

瀧本ゼミの活動が気になる方へ

瀧本ゼミは、ビジネスと政治という2つの領域へのリサーチを通して、非情で過酷な現代社会を生き抜くための意思決定の方法を学ぶゼミです。現状を分析し、自分なりの仮説に基づいて計画を立て、その計画を実行し、その結果を受けて仮説と計画を修正し、再び実行する。このサイクルは、私たちがこれから現代社会を生き抜いていくために、あらゆる場面で必要とされます。ビジネスと政治という答えのない領域を前にして、各人なりの問題への取り組み方、不定形に動き続ける現実へのアプローチの方法を確立するべく活動しています。議論が好きな方、知的好奇心溢れる方、成長したい方にオススメの自主ゼミです。