五月祭講演会『東大×文京区、本当に実現します!議論で終わらない学生による政策提言』レポート

 

5月19日、瀧本ゼミ政策分析パートは「瀧本ゼミ五月祭講演会 東大×文京区、本当に実現します!議論で終わらない学生による政策提言」を開催いたしました。当日は政策決定者の方や東大生だけでなく、文京区にお住まいの方など、多くの方にお越しいただきました。ご参加くださった皆様、誠にありがとうございました。

当日の様子

当日は、文京区区長・成澤廣修氏、京都大学客員教授・瀧本哲史氏をお招きし、ゼミ生がご提案した政策の導入の可否を議論いたしました。弊団体は昨年の五月祭でも政策提言を行いましたが、今年はより地方自治体の持続可能性を重視した企画内容となっておりました。以下、政策提案の概要と成澤区長のコメントを簡単にご紹介させていただきます。

 

【成澤廣修氏】

昭和41年2月7日生。文京区本郷出身。明治大学公共政策大学院修了後、当時としては最年少で文京区議会議員当選。平成19年度から文京区長。「自治体の持続可能性」を重視し、生産年齢人口確保のための子ども宅食やネウボラ事業など、子ども向けの政策を推進する。

 

当日の提案内容と成澤区長・瀧本先生のコメント

アトピー性皮膚炎の予防政策

提案内容

生後早期に保湿剤を塗布することでアトピー性皮膚炎を予防できることが分かってきていますが、この問題は皮膚科・小児科・産婦人科の間隙にあるため、取り組みが進んでいないのが現状です。そこで、保護者へのタッチポイントとして優れている保健師の主導によりスキンケア講習会健診の場での情報提供を行うこと、および成育医療研究センターと協力して政策の効果測定をすることをご提案いたしました。

コメント

成澤区長「自分自身アニサキスアレルギーでかなりアレルギーへの関心は高いのですが、アレルギーマーチの進行を抑制するという発想はとても面白いと思いました。また、保健師がタッチポイントというのも、両親学級などの早い段階で保護者にきちんと話をするというのも納得がいきます。ただ大矢先生※1がコメントされているように、研究として実施していくとなると、研究をフォローアップしてくださる文京区内の大学の先生方が必要になります。成育の先生だけでなく、小児アレルギー科の方などとも協力して、良いチームが作れるのであれば実現したいですね。非常に良い提案だと思うので、是非進めたいと思います。」

瀧本先生「そうですね。文京区には大学病院が沢山あるので、連携できる人も多いのではないでしょうか。区内に相談できる人がいると進めやすいと思います。」

成澤区長「はい。実は、現在も保健サービスセンターでアレルギー相談事業はやっているんですが、それは予防ではなくアレルギー発症後の子どもを対象としているんですね。だから、こういう予防の施策は重要だと思います。また、一般的に子どもが生まれる前の親御さんは、育児書を読み込むなどかなり情報収集熱心なんですが、生まれた後はそんな余裕がなくなってしまうんですね。だから、産前にも産後にもタッチポイントを設ける必要があります。四カ月健診は保護者が必ず保健師に会う機会なので、活用できると思います。まずは担当部署の者に相談してみます。」

※1 成育医療研究センター生体防御系内科部アレルギー科医長であり、「バリア機能保護によるアトピー性皮膚炎予防」の第一人者。昨年弊団体が提案したつくば市でのアトピー性皮膚炎予防政策にもご協力頂いている。

 

中高生の睡眠不足問題を解決する政策

提案内容

中高生の睡眠不足問題に対して、一般的には「早寝早起き」が推奨されていますが、実は中高生は生活リズムが生理的に夜型化します。そのため早すぎる始業時刻は、慢性的な睡眠不足をもたらします。海外の介入研究では、始業時刻を遅らせることで出席率の上昇や学業成績の向上などの効果があることが分かっています。そこで、朝練・朝活の適正化および始業時刻と睡眠時間に着目した横断研究を行うことを提案させていただきました。

コメント

成澤先生「率直に言って難しい提案だと思いました。まず、始業時刻が遅くなると、塾や予備校に通いづらくなり、生徒の選択肢を奪ってしまうことになります。また、親が出かける時間より子どもが出かける時間のほうが早くなると、子どもは一人で出かけなければなりません。以上のことを考えると、かなり実現可能性に疑問があります。また、紹介された研究はほとんどアメリカのものでしたが、アメリカと日本の教育現場では状況が大きく異なります。だから研究で見られたような効果は、日本では現れない可能性もありますね。もし研究するとしても、文京区として実行するのは難しいと思います。なぜなら、文京区は区立中学に通う生徒が半数ですので、効果が現れにくいと考えられるからです。また、私立高校に進学する生徒も多いため、私立高校も変わらないと意味がないのではないでしょうか。中高一貫の私立などで研究を行うなら良いかもしれませんが、自治体でやるには難しいと思います。」

瀧本先生 「確かに、文京区が正しい提案先ではない可能性はありますね。中高一貫とかの方が研究しやすいし、そちらで実績を作って広げていく方が良いかもしれません。」

ゼミ生「部活動の朝練時間の制限のように、もう少し現実的な案なら実現可能でしょうか?」

成澤区長「確かに部活動が厳しすぎるというのはあると思います。ですが、部活動の時間制限については教員の働き方改革の文脈で既に進められていますね。生徒の睡眠時間の確保が趣旨ではありませんが、教員の労働時間改革を見守る方向で良いのではないでしょうか。」

瀧本先生「そういう意味では、教員の働き方改革も併せて提案すると通りやすくなるかもしれませんね。他の利害関係をセットにするとうまくいく政策もあります。」

 

いじめの防止政策

提案内容

いじめにおいて傍観者が重要な役割を果たしているにも関わらず、現状のいじめ対策は加害者・被害者にアプローチするものがほとんどであり、傍観者にはほとんど着目していません。フィンランドの公式いじめ対策プログラム・KiVaは傍観者の行動を変えることでいじめを減らすものであり、海外複数国でその効果が実証されています。過去にゼミ生による政策提言の結果、世田谷区ではKiVaを基にしたいじめ免疫プログラムが導入されています。今回は、文京区でも同様にいじめ免疫プログラムを導入すること、およびその効果測定を行うことをご提案しました。

コメント

成澤区長傍観者に対するアプローチというのが興味深いものでした。文京区ではアサーショントレーニングといういじめ対策を既にやっていますが、こうした既存の施策と併せて実践したいと思いました。」

ゼミ生「戸田先生※2は実践を重視する方で、世田谷区では世田谷区に合った実践をしていらっしゃいます。文京区で導入する場合は、戸田先生のご協力を頂きながら、文京区の教育現場に合った導入方法をご提案させていただけたらと思います。」

成澤区長「もう一つ懸念としては、KiVaプログラムを教員の指導として行っても、生徒の反発が強いのではないかということです。一方で、例えば文京区で行っている、発達障害を抱えている子どもに対するプログラムは、東大の教授が研究ではなく実践としてやってくれています。そういう意味では、大学人材を活用して傍観者アプローチを実践する時間があっても面白いかもしれません。いずれにせよ、これはトップダウンでやる施策ではないと思うので、まずは教育の指導課の担当に相談してみたいと思います。」

※2 大阪教育大学教授。関西でいじめ免疫プログラムの実践を進める。

 

参加者からの質問

参加者「今回の政策提案は特定の問題に焦点を絞った内容でしたが、文京区として特に取り組みたい問題はありますか。」

成澤区長「あらゆる分野の問題に取り組みたいと思っていますので、常に市民や学生からの提案はいただきたいです。提案をいただけたら、予算や優先順位などの兼ね合いも判断しながら検討するつもりです。現在行われている『子どものプレゼン能力を伸ばすプログラム』も子ども宅食事業も、実はNPOからの提案です。」

成澤区長だけでなく来場者の方々も熱心にゼミの政策案を聞いて下さいました!

参加者「区民の立場からは、具体的にどのように区政に関われますか。」

成澤区長「議員に直接話すなり、区役所の部署のほうに来ていただくなり、どんなチャネルでも構いません。これと決まったものはありません。現在行っているスターティングストロングプログラムも、東大の研究発表を担当職員が偶然聞きに行っていて、翌年から導入が決まりました。」

瀧本先生「そういう意味では職員の役割って重要ですね。公務員は安定しているからという理由で選ばれがちだけれど、予算も人もあるから、ポテンシャルが高い仕事だということは強調しておきたいと思います。」

 

参加者「東大職員の者です。大学改革が事務方でも話題になっていますが、そこには地元である文京区という視点が欠けていました。これからは機会があれば共同して進めていきたいと思いました。質問ですが、いじめ対策KiVaプログラムはフィンランドで開発されたとのことでしたが、なぜフィンランドでいじめに関する研究が蓄積したのでしょうか。」

瀧本先生「フィンランドの教育の均一性が高いことが挙げられると思います。実はいじめなどの問題に取り組める国は多くありません。例えばアメリカでは、薬物や貧困などもっと緊急性の高い問題があるため、いじめに関してはあまり研究熱心ではないんですね。」

 

政策提言全体に関して

成澤区長

「とても興味深い企画内容でした。五月祭だけでなく、これからも是非政策提案に来てほしいと思います。」

瀧本先生

「区だけで出来ることは多くありませんが、区民と役割分担すれば、もっといろんなことが出来ると思います。文京区は千代田区とは違って大企業がありませんから、「足による投票」で住民が選び、住民が作っていく自治体なのではないかと思います。今日は、文京区に住む意味を感じてもらうことができれば良い会だったのではないでしょうか。」

 

当日は、特に「アトピー性皮膚炎の予防政策」および「いじめの防止政策」の提案について、前向きなお言葉を頂くことができました。今後この二つの政策の導入を検討していただくことになりました。

講演会にご参加くださった皆様、誠にありがとうございました。重ねて御礼申し上げます。

 

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瀧本ゼミは、ビジネスと政治という2つの領域へのリサーチを通して、非情で過酷な現代社会を生き抜くための意思決定の方法を学ぶゼミです。現状を分析し、自分なりの仮説に基づいて計画を立て、その計画を実行し、その結果を受けて仮説と計画を修正し、再び実行する。このサイクルは、私たちがこれから現代社会を生き抜いていくために、あらゆる場面で必要とされます。ビジネスと政治という答えのない領域を前にして、各人なりの問題への取り組み方、不定形に動き続ける現実へのアプローチの方法を確立するべく活動しています。議論が好きな方、知的好奇心溢れる方、成長したい方にオススメの自主ゼミです。