五月祭企画特別インタビュー-瀧本哲史先生が指摘する地方自治体の「隠れた」可能性とは?-

今年の五月祭では、瀧本ゼミ政策分析パートは東大本郷キャンパスが位置する文京区の成澤廣修区長をお呼びし、その場で政策提言を行います!

弊ゼミでは、去年の五月祭においてもつくば市副市長の毛塚幹人氏に政策提案した他、普段の政策提言活動でも、地方自治体への政策提言に近年特に力を入れています。

こうした戦略の背景にはどのような現状認識があるのでしょう。

五月祭を今週末に控えた今、「なぜ瀧本ゼミは地方公共団体に注目するのか」を弊ゼミ顧問の瀧本哲史氏にインタビューしました!

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国政は負担加重で、機能不全に陥りつつある

ゼミ生:早速ですが、なぜ弊団体は地方自治体に政策提案をするのでしょうか?
普通、政策提案と言ったら、官僚や国会議員といった、国政関係者をターゲットにするものではないでしょうか?

瀧本:ほう、どうしてそう思うのですか?

ゼミ生:結局、法律とか、政府の政策を変えることでしか、日本全体を変えることは出来ないと思うんですよね。一方で、地方自治体に政策提言しに行っても、結局その地域でしか変わらないでしょうし、一つずつやっていては、日本全体にインパクトを与えるなんて「今世紀中には無理」というものではないでしょうか?

瀧本:私は実は違う見方をしています。逆に、国政では現状日本を変えることは難しいという考え方を持っています。というのも、国政は機能不全に陥りつつあるからです。やや極端な事例ですが、今年の初めには厚労省の統計不正が問題になり、最近の事例だと、経産省若手官僚が薬物使用で逮捕されたということがありました。これは、正確な判断能力を官僚機構は失いつつあり、ガバナンスが危機的状況にあるということです。統計不正まで行かなくても、根拠が薄弱な政策はたくさんありますし、薬物使用しなくても、慢性的な睡眠不足は、飲酒をしているのと同じ状態ですから、判断能力がかなり低下したまま仕事をしていることになるはずです。元々優秀な人材でも、それが充分に活躍できる基盤がありません。

内閣、政治レベルでも問題があります。政策優先順位としては、憲法改正や、アメリカ・中国・韓国との外交問題への対処にかなりのリソースが割かれています。

結果、かなり大文字の「政治」はさておき、実は国民の生活に直結する個別の政策はかなり「品質」が落ちていると思います。直近の「大学無償化政策」についても、政策目的と逆行する着地点になったと疑問視する声が専門家から上がっています。

ゼミ生:成る程。では、どうしてそのような状況に陥ってしまっているのでしょうか?

瀧本:端的に言えば、国政が抱えている問題は多岐にわたり複雑で、しかも、それを全国一律に解決しなければならないという難問が科されているにもかかわらず、その問題解決のために配分されているリソースが量質両面であまりに少ないと思われます。そもそも多種多様な課題を全国一律に解決しようとするスキーム自体に限界がきているのでしょう。端的に言えばいわゆる「無理ゲー」です。しかも、官僚の採用はどんどん難しくなっているのは最近の報道の通りですし、若手、中堅の退職も増えています。公務員も国会議員も定数や予算を減らす話はあっても増員の方向にはありません。課題はより難しくなり、リソースはより少なくなっていく。このトレンドは残念ながら変わらないのではないでしょうか。数十兆円の行方を決めるのに、桁違いに少ない人件費をケチるのは合理的ではないですが、そういった考えが国民の多数を得ることはないでしょう。

ゼミ生:それなら、もはや国民の生活は政策によっては解決されえないという未来になるのでしょうか

瀧本:今までと同じパラダイム、スキームで考えるとそうなってしまいます。そこで、「全国一律」に「ぶっつけ本番」で政策を試して解決を図るというスキームを諦めて、「地域に合わせた」政策を地域で「ある種小規模な実験」として実行し、その是非を国民が「足による投票」で選択するという方向性に変えていくのが一つのアプローチだと考えます。例えば、道州制の議論や、アメリカの州制度がこのアプローチです。逆に、EUは国を超えて金融政策を統一し、各国の財政政策は全然違うので、ドイツは上手くいっている一方でギリシャはボロボロ、でも再配分はなされない、といったことが起きています。大きい枠組みで政策を実施することに無理があることを示唆しているように思います。

さらにいうと、国政は統治機構の設計がややいびつなんです。

ゼミ生:いびつ、というとどういうことでしょうか。

瀧本:参議院は二院制にしてはかなり拒否権が強いし、選挙で半分ずつしか入れ替わらないですよね。議院内閣制は、議会と政府が一致しているので安定しているように見えて、実際には、政権基盤は脆弱です。衆議院は首相の権限で任期を待たずに解散させられてしまいますから、議員は常に選挙のことを常に気にかけなければならない。「選挙の顔としてどうか」という漠然とした理由で、突然首相おろしが始まったりする。それを狙って、政策と言うよりもイメージを上げたり、下げたりする競争が行われる。なので、長期的に何か変革を起こすには構造的に向いていない制度なんですよね。55年体制と言われたように、自民党一強じゃないか、という意見もあるかもしれませんが、あれも結局、党内で派閥同士での政権交代が起きていて、内閣は脆弱だったと見るべきです。

ゼミ生:確かに日本では、与党内での派閥争いのせいで実際には内閣が弱くなってしまっていたことは、政治学においても一定のコンセンサスを得つつあることのように思われます。それでは、国政に比して地方自治体はどういった点で政策提案に向いているのでしょうか。

地方自治体の「隠れた」可能性

瀧本:地方自治体って、4年間はほぼ確実に首長が続投しますし、選挙でも現職が強いので再選可能性が高いんです。なので、首長の権力は安定していると言えます。また、議員も大選挙区制なので、比較的少数の票で当選できます。個別イシューでの一点突破やエリアを絞った集票活動が狙えますから、その地域住民の意見を広く吸い上げることが可能です。更に、政策立案のスキームを見てみても、地域民の意見を集約した議員から政策提案を受け、それを首長が実行するというケースが多いです。そうやって首長は支持基盤を安定化させているわけですね。
一般論としても、選挙に強い議員じゃないと政策をやる余裕がもてない訳です。「政策通」とされる議員が落選してしまい、政策が頓挫するのは良くあることです。地方議会でも同じことが言えて、シングルイシューでも選挙突破できる、むしろそのイシューを解決することが支持を確保しているような人が地方議員には多いので、彼らにはその政策をしっかり実現させるインセンティブがあるわけです。特に、地方公共団体においては、多くの議員は一応政党には入っているけれど、政策を進める際に国政政党のように政党内で複雑なプロセスを通りながら、コンセンサスを形成する必要がなく、区長に直訴してしまえば通るんですよ。

ゼミ生:確かに、議員さんに政策提案しに行った際に、議員は自分の所属する政党とは別に、首長与党と首長野党に分かれていて、首長与党のほうが政策提言が通りやすい、みたいなことを言っている人はいらっしゃいましたね。後は、彼らは比較的長めに僕らの提案を聞く時間を取ってくれますね。中には、終わりの時間を決めずに僕らの提案を聞いてくれた方もいらっしゃいました。国会議員の方とかはスケジュールがタイトで、なかなか時間を取ってもらえないし、取ってもらえたとしても短いことが多いですね。

瀧本:そうなんですよ。それは、議員の稼働分析をしても明らかです。例えば、国会議員は自分たちの地元選挙区で後援会の方に、自分が何をしているかを説明したり、支持をお願いしたりする必要があって、永田町と選挙区を往復する分の時間ロスがあります。一方、地方公共団体の議員にはそういった時間ロスがないという事が大きいかと思います。地方公共団体では、経費節減で議員の公用車利用を制限する流れにありますが、あれは時間効率と言うことを考えると得策ではないです。

以上のことを踏まえると、国民がしてほしい政策を早期に実現するという観点からすると、実は地方自治体でやってもらうほうが早期実現できるのではないか、と考えるわけです。また、一地方自治体を変えても効果が限定的と考えがちですが、日本は地方公共団体同士での政策・実務のレファレンス能力が高いので、一自治体に導入した後、それがよい政策であれば「〇〇市方式」として横に広がることも期待できます。そのための社会実験、足による投票の促進という観点からも望ましいと思われます。

ゼミ生:たしかに、今回の五月祭にお呼びする文京区の成澤区長もインタビューで、良い政策を実現して、住んでもらうという足による投票を意識しているようでした
しかし、消滅可能性都市の存在が具体的に挙げられているように、地方自治体の力はもうほとんど残っていないのではないですか。足による投票で上手くいく、というのはいささか楽観的な話ではないでしょうか。

瀧本:いや、むしろその結果としてつぶれてしまうような自治体はいずれにせよ消滅する運命と割り切るほかないと思います。そうやって、良い自治体が生き残っていくことが、望ましい結果です。例えば、開発経済学の実証研究の中には、経済成長のための多額のODAを受けても投資に回さず浪費が増えるだけで、ちっとも状況が良くならない国・地域があると。それはなぜかというと、「慈悲深い人のジレンマ」といって、貧困だから援助をもらえることが分かると、援助をもらい続けるために貧困状態を維持しようとして、地元を改善するインセンティブがなかったからですね。しかし、仮に足による投票が実現するなら、より市民のために地域を良くするインセンティブが生まれるでしょう。

ゼミ生:確かに、支援金が増えると、汚職も増えるみたいな研究報告もありますよね。一方で、土着の人の方が、地域の公共財への投資インセンティブがあるという研究結果もあります[1]。

瀧本:それに、納税による投票は実はもう始まっています。ふるさと納税です。これは自治体の過度なキャッシュバックで批判されてもいますけど、良い政策を評価してお金を送るという形で、支持を視覚化しているという使い方もされています。実際に、数千万程度なら政策にお金を集めることも可能になっています。(ふるさとチョイスが行う「ガバメントクラウドファンデング(GCF)」。今回の五月祭で政策提言をさせて頂く文京区も、「こども宅食」でGCFを行い、平成29年度は目標金額2000万円のところ、約8000万円を集めて運営資金としている[2]。)

こども宅食は納税による投票の成功例

ゼミ生:なるほど、地方自治体がより良い政策を行うインセンティブはさらに高まりそうですね。それでは最後に、今度の五月祭に何を期待されますか?

瀧本:そうですね、文京区は実は先進的な取り組みを多くしているし、東大は文京区にあるけれど、あまり注目されてこなかったように思います。東大生も、東大は文京区にあるという意識は弱く、隔絶があるように思われますが、これを機に、もっと地元である文京区に目を向けてみても良いのではないでしょうか。
もっと言うなら、東大生は国政レベルの政治・政策を議論することが好きな人が少なくないようだけれど、その議論は、基礎自治体という実は重要なファクターを欠いている可能性があります。今年の五月祭の企画は、その欠けている視点を補ってくれるという点で、一見の価値があるように思います。

ゼミ生:ありがとうございました。

瀧本ゼミは、これまでもつくば副市長や、河野太郎氏への政策提言を行って参りました。今回の五月祭の講演会では、地方自治体の可能性に着目し、文京区長の成澤氏と政策導入の可否を議論していきます。

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出典

[1] Econometrica, Vol. 78, No. 6 (November, 2010), 1863–1903
THE PERSISTENT EFFECTS OF PERU’S MINING MITA
BY MELISSA DELL1
[2] https://www.city.bunkyo.lg.jp/kyoiku/kosodate/takushoku.html

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瀧本ゼミは、ビジネスと政治という2つの領域へのリサーチを通して、非情で過酷な現代社会を生き抜くための意思決定の方法を学ぶゼミです。現状を分析し、自分なりの仮説に基づいて計画を立て、その計画を実行し、その結果を受けて仮説と計画を修正し、再び実行する。このサイクルは、私たちがこれから現代社会を生き抜いていくために、あらゆる場面で必要とされます。ビジネスと政治という答えのない領域を前にして、各人なりの問題への取り組み方、不定形に動き続ける現実へのアプローチの方法を確立するべく活動しています。議論が好きな方、知的好奇心溢れる方、成長したい方にオススメの自主ゼミです。