妊娠期から継続的な家庭訪問を行うことで虐待予防が可能に

サマリー

  • 虐待の対応件数は増加しているが、一度虐待にあうとその後の精神疾患を患うリスクが上昇するため虐待を未然に防ぐことが重要である。
  • 妊娠期からハイリスク家庭に対して家庭訪問を行うことで虐待を未然に防げることがわかっている。
  • その中でも効果実証が多く実施され、日本の自治体でも試験導入実績のあるHFAモデルを虐待予防として導入することを提案する。

詳細

近年、児童相談所の虐待相談件数は増加傾向にあり、平成28年度には12万件を超えました[1]。特に一度虐待被害に遭うと、うつ病のリスク(オッズ比)が2.03倍、不安障害のリスクが2.70倍になる等、その後の発育に悪影響が出ることが報告されています[2]。加えて、虐待による死亡は0歳児が多く[1]、出産前後から対策を行い虐待を予防する取り組みを行うことが重要です。

しかし、政府・厚労省が発表している「児童虐待防止対策のための総合対策」では児童虐待の早期発見・早期対応や里親支援など事後対応が重視されており、虐待予防の観点が抜け落ちています[3]。

虐待を予防するための取り組みは海外で数多くなされており、どのような対策が効果的か検証も行われています。虐待の発生には、保護者・子どもの身体的、精神的状況や経済状況、社会的状況等の要因が複雑に絡んでいるため、子どもを引き離すことなく社会的に孤立している家庭にもアクセスし、個々の家庭に合わせて支援が可能な家庭訪問プログラムが注目を集めています[4]。
実際に虐待予防に関する実証的根拠も多数報告されています。Levey et al.(2017) では、一般的にエビデンスレベルが高いと言われるランダム化比較試験及び虐待予防を目的とした研究を対象にシステマティックレビューを行ったところ、家庭訪問プログラムに関する報告のみが抽出されました。加えて、より虐待予防効果が認められたプログラムの特徴として、①妊娠期に開始し②少なくとも二年継続していること③出産直後は毎週訪問していること④介入後も長期に渡りフォローしていること、及び⑤介入内容が具体化されていること、の5点が報告されています[5]。
家庭訪問プログラム自体の効果についても多くの研究がなされています。Casillas, Fauchier, Derkash & Garrido(2016)では、ランダム化比較試験だけでなく疑似実験やコホート研究も含め家庭プログラムの効果検証をした研究159個を対象にシステマティックレビューを行い、①非暴力的な躾や褒めるなどの肯定的な接し方の増加、②養育姿勢や養育への満足感向上、及び③子どもの成績向上という効果があったことを報告しています[6]。

もっとも、実際に虐待予防のために家庭訪問プログラムを導入する場合にクリアしなければいけないポイントもあります。
まず、効果検証のされたプログラムであることです。現在、数多くの家庭訪問プログラムが存在しており、具体的な内容や実施方法によっては効果の見込まれないプログラムも存在します[6]。
加えて、プログラムを実施するためのスタッフ確保が容易であることです。日本では地方自治体が自主的に虐待予防のために乳幼児訪問事業を拡張するなどの取り組みを行っていますが、支援者の確保が要検討課題になっており高頻度かつ継続的な家庭訪問を新たに実施する上でスタッフ確保が重大な課題になり得ます[7]。
これらの課題をクリアしており、広範な地域で導入実績のあるプログラムがHealthy Families America(以下、HFAモデル)です。
例えばDuMonta et al.(2008)ではニューヨーク版の効果をランダム化比較試験により検証し、ハイリスク妊婦に対して妊娠期から介入を行ったところ、二年後に身体的暴力及び厳しい躾が発生した家庭が20%ほど減少したと報告しています[8]。

HFAモデルは、35の州と585の地域で展開され10万家庭近くが毎年プログラムを利用しています。HFAに申請することでHFAモデルを使用することが可能なため、Healthy Families New York等、多数のローカライズ版が存在します[9]。実際に日本の愛知県田原市でも過去に試験導入がなされています。田原市では母子健康手帳交付時にハイリスク家庭を抽出し、周産期医療機関と連携しながら出産までフォロー、さらに出産後は保健師による継続的な家庭訪問を行うことで連続的な支援を実現しました[10]。
HFAモデルがその他のプログラムに比べて優れている理由は以下のようにまとめられます[7]。

また、地域ごとにカスタマイズされるものの、HFAモデルの特徴は以下の三点になります[8][11]。

①妊娠期に両親の生育歴や犯罪歴、精神状態などを尋ねるスクリーニングシートで定量的に ハイリスク家庭を選別
②ハイリスク家庭のみに1~2週間に一度、おおよそ1~2年の間継続的な家庭訪問を実施し虐待の傾向がないかの確認及び育児の継続的な支援を行うこと
③「(1)1週間の研修及び(2)家庭訪問スタッフは週1回上司と面談をし四半期に一度上司の観察 の下で家庭訪問を行う」ことを条件に一般の家庭訪問スタッフには特別の資格要件を設けていないため、比較的スタッフの養成が容易

日本では、既に厚生労働省の事業として各自治体が生後4ヶ月までの乳児のいる家庭を全戸訪問していますが[12]、ハイリスク家庭のみに限定すること及び、保健師ではなく一般のスタッフが訪問することでコストを減らす一方、ハイリスク家庭への訪問頻度・期間を増やすことでHFAモデルを導入することが可能だと考えられます。

まとめ

虐待は未然に防ぐことが重要であり、海外では虐待予防に資する家庭訪問プログラムの開発及び効果検証が多数行われています。その中でもHFAモデルは海外だけでなく日本の自治体での試験導入実績もあり、導入が比較的容易だと考えられます。HFAモデルの利点は効果検証がなされているだけでなく、ハイリスク群のみを抽出し保健師などの専門職でなく一般の家庭訪問スタッフにより実施できることからコストをかけずに実施できる点も挙げられます。以上から、各自治体でも乳児訪問事業としてHFAモデルを導入することを提案します。

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出典

[1]厚生労働省,社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第13次報告)」.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000173329.html,(最終閲覧:2018/12/29).
[2]M. Li, C. DʼArcy, and X. Meng,(2016) . Maltreatment in childhood substantially increases the risk of adult depression and anxiety in prospective cohort studies: systematic review, meta- analysis, and proportional attributable fractions , Psychological Medicine , 46, 717‒730.
[3]厚生労働省,「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策(平成30年7月20日児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議決定)のポイント」.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/dv/index.html,(最終閲覧:2018/12/29).
[4]Gomby, D. S. (2005). Home visitation in 2005: Outcomes for children and parents (Vol. 7). Invest in Kids working paper.
[5]Levey, E. J., Gelaye, B., Bain, P., Rondon, M. B., Borba, C. P., Henderson, D. C., & Williams, M. A. (2017). A systematic review of randomized controlled trials of interventions designed to decrease child abuse in high-risk families. Child abuse & neglect, 65, 48-57.
[6]Casillas, K. L., Fauchier, A., Derkash, B. T., & Garrido, E. F. (2016). Implementation of evidence-based home visiting programs aimed at reducing child maltreatment: A meta-analytic review. Child abuse & neglect, 53, 64-80.
[7]白石淑江. (2011). 児童虐待の予防を視野に入れた家庭訪問支援 (その 1): Healthy Families America の家庭訪問プログラムの概要と日本の家庭訪問事業の課題.
[8]DuMont, K., Mitchell-Herzfeld, S., Greene, R., Lee, E., Lowenfels, A., Rodriguez, M., & Dorabawila, V. (2008). Healthy Families New York (HFNY) randomized trial: Effects on early child abuse and neglect. Child abuse & neglect, 32(3), 295-315.
[9]Health Families America, http://www.healthyfamiliesamerica.org/(最終閲覧:2018/4/30).
[10]あいち小児保険医療総合センターHP, 母子健康診査マニュアル平成23年度愛知県母子健康診査マニュアル(第9版)第2章「母子健康診査の基礎」.http://www.achmc.pref.aichi.jp/sector/hoken/information/screening_manual.html, (最終閲覧:2018/4/30).
[11]Lansing, M., Green, B. L., Lambarth, C. H., Tarte, J. M., & Snoddy, A. M. (2008). Healthy Start of Oregon, Annual Report on Maltreatment Prevention.
[12]厚生労働省,「乳児家庭全戶訪問事業ガイドライン」.https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/kosodate12/03.html,(最終閲覧: 2018/10/1).

 

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