文系学生がテクノロジー社会で生き残るためには?

新入生の皆さんはじめまして。瀧本ゼミ政策分析パートの青山です。
合格発表が行われ、新入生の皆さんは入学して、希望ある未来に心を踊らせていることでしょう。みなさんはこれから大学4年間、大学院なども含めるとそれ以上の期間を使って、様々なことを学び、どのような仕事をしたいか、どのように生きたいかに考えを巡らす事ができます。わかりやすい仕事名でいえば、官僚になりたいという人、研究者になりたい人、企業法務やM&Aを行う弁護士になりたいという人、ベンチャー企業でエンジニアをやりたい人もいるでしょう。みなさんはこれからの生き方、仕事を自由に選ぶことができるのです。

しかしながら一方で、こんな不安を抱いた事がある方もいるかもしれません。

将来就く仕事や業界は今後も賃金が上がり続けるのか。」
なんとなく職業を選んで果たして大丈夫なのか。その業界が消滅することはないか。」
自分がこれから就く仕事が機械やテクノロジーに代替されるのではないか

この懸念はまんざら的外れでもありません。実際、一部の研究では、日本の職業の実に49%の職業が人工知能により自動化された機械により代替される可能性があるとされています[1]。

[注1より引用]

ホワイトカラーの仕事の多くも、代替可能性の危機に晒されていると上記のレポートでは指摘されています。のみならず、例えば、AIが新聞記事を作ったり[2]、小説や音楽、絵画のような芸術作品の創作に携わったりする実験が行われており、単純労働に限らない創作分野に対しても人工知能はその能力を発揮できることが示されています[3]。そしてこれらのことが大々的に取り上げられることもあり、将来の雇用に関する大学生の不安が高まっています

結果的に、文系学生が代替可能性の危機に晒される仕事を忌避する流れは強まっています。例えば、多くのメガバンクが人員削減を進めており、また2017年にも三菱UFJフィナンシャルグループは、平成35年末までに従業員の1割以上を機械化によって減らすことを発表し[4]、2020年卒のインターン先志望企業ランキングの調査では、前年度と比べてメガバンクの順位が大きく落ちました。日本経済新聞によれば、大企業志向は依然強いにも関わらず大手金融機関への就職希望者が少なくなったのは機械化の影響で敬遠する人が増えたためだとされています[5]。今後も様々なホワイトカラーで機械化が行われ、採用人数が減ることが繰り返されていくでしょう。

このような状況下で、テクノロジーの波に上手く乗りこれからの時代を生き抜いていこうと考える学生が少なくないのは無理のないことだと思います。しかし、技術革新によって仕事がなくなるかもしれないという不安は、過去にも繰り返されています。過去にも様々な危機が存在し、多くの人たちがその変化に苦しめられてきましたが、一方でそれを乗り越えてきた人達がいたことも事実です。以下では技術革新に人々がどう立ち向かってきたかを書きました。その歴史的事実を理解することで、あなたの“これからの生き方”の意思決定の助けになるはずです。

技術革新の勝者は、技術を身につけた者か

過去の経済変化でもっとも参考になるのは、西欧を中心に広まったグローバル化に伴う経済成長と産業構造の変化でしょう。
1860年~70年代のヨーロッパ諸国間での貿易拡大は、高い経済成長と繁栄をもたらしつつも、同時に比較劣位産業とその立地する地域、それに関係する人々の不利益をもたらしました。イギリスでは1700年代から既に産業革命による経済発展が始まっており、富が多く生まれてはいましたが、劣悪な労働環境や低賃金、急激な都市化によって、都市部の衛生環境は極めて悪化していたと言います。現に平均寿命が、農村地帯のトランドシャーでは38歳だったのに対し、都市部マンチェスターの職工・労働者やその家族の平均寿命は17歳と、歴然とした差が生まれてもいました[6]。このような経済発展に伴う庶民の苦難は、都市部を中心として民衆感情を著しく悪化させていきました[7]。そのような状況を小野塚(2018)は「繁栄の中の苦難」と称し、それに伴う民衆感情の悪化を以下のように述べています。

全体として世界経済も自国経済も繁栄傾向にあるのに、なぜ、自分の業種・地域は苦難を味わわなければならないかという問いは、殊に有権者が増え、民主化や言論の自由が増進している状況では、多くの人々を納得させる何らかの答ないしは解釈を必要としました[8]。

このような苦難が社会主義のほか、79年のドイツ関税法に始まる「関税戦争」と保護主義をもたらすことになりました。その後も貿易は拡大しましたが、その一方で経済的な脅威としての「不公正貿易」等に関する国家間の憎悪やナショナリズムを煽ることになりました。19世紀末以降のイギリスでは、E・E・ウィリアムズが1896年に発表したパンフレット『Made in Germany』など、自国市場にドイツ製品が氾濫しているとして経済的に「ドイツの侵略」を受けているという認識が作られ、広まっていきました[9]。このような経済的な不満が政治家の思惑や作為によってナショナリズムに結びつき、一部は戦争を希求する高揚につながっていったことも指摘されています。

このような状況が現在の状況に通じるものがあることは否めません。経済成長と輸出入拡大が格差の拡大を招き「繁栄の中の苦難」をもたらしており、その中で世界的にポピュリズム勢力の台頭が耳目を集めています。ポピュリズムに限らずとも、フランスではマクロン政権による燃料税引き上げや富裕税廃止といった富裕層寄りの改革に対し、政権退陣を求める全国的規模の抗議デモ、「黄色いベスト運動」が巻き起こっています[10]。経済学書『21世紀の資本』で指摘されたように、第一次、第二次世界大戦期を除き一貫して資本成長率が賃金成長率を上回っており、賃金労働者よりも資本家がより多くの富を得るという状況が続いています[11]。

[注11より引用]

そしてこのようなトレンドの中で、アメリカなどでは資本家を始めとした所得上位層の所得シェアが80年代以降上昇を続けており、トップ1%の所得シェアが約20%ほどにまで達するようになっています。

[同上]

かつての産業革命でも資本家や経営者が莫大な富を得た一方で、必ずしもそこで働いていた工場労働者などに相応の豊かさが行き渡りませんでした。同様に、現在はITや機械学習などテクノロジーの進歩とその普及に伴うビジネスが盛んになっていますが、それに従事するエンジニアやプログラマーが全て勝ち組になっているわけではありません。実際に、エンジニアの平均給与水準が必ずしも上昇しているわけではなく、同種職業の中でも格差が拡大しつつある事が知られています。また例えば、多くのIT関連企業が今後社員の給与差を拡大させることを志向していることが示されてもいます[12]。ITエンジニアの労働環境が必ずしも良好ではないことも良く知られていますが、全労連によるITエンジニアの待遇について352 社を調査した報告では、ITエンジニアの36協定の上限時間に収まる “45 時間以下”は1割に過ぎず、最も長い人が “80 時間超”の企業が5割強、“100 時間超”も3割近くを占めるとされています[13]。実際、世界的な実証研究としてもSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics:科学・技術・工学・数学の総称)全体の給与水準が上昇しているわけではなく、STEM卒業生内での格差が広がっていること、近年STEM、特に数学を中心としたスキルを必要とする雇用は減少していること、STEM内での過剰教育も賃金への悪影響を与えていることなどが知られつつあります[14][15][16][17]。

同じSTEM系職業でも差のばらつきが大きいことがわかります。[注15より引用]

[注17より引用]

不確実な時代を生き抜くために必要な普遍的なスキル

上記から、技術を身につけても、必ずしも生き残れる訳ではないことが理解できます。技術を持っていても、その中でコモディティ化(他の商品との差別化ができず一般的な商品になってしまうこと[18])してしまうと、必然的に安さや労働量勝負になるため、賃金差、労働環境が悪化することは理解しやすいでしょう。では、どのような人達が生き残ることができるのでしょうか。そこで勝敗を分けたのは、変化の激しい時代の中、正しく意思決定を行ってきたかどうかです。正しく課題を設定して勝った人達がいるということです。

有名な事例に、写真産業の破壊的変化に対するイーストマン・コダックの破綻と富士フイルムの躍進があります。これは産業変化に対する組織の意思決定の適否が組織の命運を分けたことを如実に示す好例です。

写真業界最大手だったコダックはデジタル化に先駆けデジタルカメラも開発した最先端企業でしたが、驚くべきことにデジタルカメラの普及に伴うフィルム産業の衰退が災いし、結果的に破綻にまで追い込まれました。一方そのような大変化の中で、当時フィルム産業第2位だった富士フイルムは、長く培ってきた高精細イメージング技術などの専門技術と知識とを応用しナノテクノロジー分野や医薬品事業へも本格参入、更にインフルエンザワクチンなどの薬剤をナノ分散化させてその吸収性を高めることにも成功しました。事業の在り方そのものを見直して積極的に事業の多角化を推進した結果、富士フイルムは前述の衰退危機を乗り越え世界的な企業に成長しました[19][20]。

[注20より引用]

また1849年カリフォルニアで起こった有名なゴールドラッシュで本当に儲けた個人は、砂金採りの人間というより関連ビジネスの起業家たちだったと言います。多くの人はカリフォルニアの河原は砂金で溢れていると期待して現地に赴きましたが、あまりに多くの人が殺到したため砂金は大して得られず、富裕になるどころか極貧にあえぐ状態になってしまいました。対照的に、リーバイ・ストラウスという実業家は、当時の砂金採りの際に立ったりしゃがんだりするうちに作業服が傷み破れやすいという問題に注目し、破れやすい作業服ズボンに代わる丈夫な服としてデニムを開発しその販売で大きな利益をあげました。ここからも、ただ流行を追うのではなく真に重要な問題を見つけその解決に取り組むことこそが重要であることがわかります[21]。

他にも優れた問題解決をして偉業を成した人物に、看護師だったナイチンゲールを挙げることができます。ナイチンゲールはクリミア戦争に野戦病院看護総監督として従軍し、兵士に対する献身的な看護を行ったことで有名ですが、それ以上に統計を用い衛生問題に一石を投じた功績があります。当時、兵士の多くが戦場で死亡すると考えられていましたが、ナイチンゲールが統計分析を行ったところ、負傷した兵士が不衛生極まりない病院に送られ感染症に罹患して亡くなる数の方が多いことがわかりました。これを踏まえてナイチンゲールは自ら作ったグラフを用いて公衆衛生の政策を強化するよう女王や国会議員に提言し、のちの公衆衛生政策改善を導きました[22][23][24]。

[注24より引用]

このように考えると、変化の激しい時代においては、ただ時流にあったスキルを身に着けるのではなく、それに加えて正しい課題を設定し正しく解決する能力が重要です。スキルを学ぼうといったことに新しくリソースを投下するのは簡単ですが、問題への向き合い方を変えていくのは簡単ではありません。だからこそ新しい問題状況に対して、それまで学んだことや培ったやり方に囚われるのではなく、新しい仕組みを導入して解決に導く能力が重要なのです。社会問題にアプローチする上でも、解くべき問題を明確にし、外部から新しい政策モデルを導入・確立させて問題解決につなげることが同様に必要となります。

瀧本ゼミ政策分析パートでは隠れた重要な問題点・課題に着目し、徹底した分析による効果的な政策案の作成及びその提案を行ってきました。既に消火器・AEDのプロジェクトを始め、疾病リスクを大きく高める座位時間を減少させるための介入を行う政策や、傍観者にアプローチしていじめを減らす画期的な政策、高齢者へのインフルエンザ罹患リスクを減らすために児童への集団予防接種を行う政策など、レポート公開やロビイングを通して日本でも高い効果の期待される政策の発見・普及に取り組んでいます。ゼミ生はこれらの活動を通して問題を正しく解決するスキルを身に着けようと試みています。この記事にあるような「今の自分にとって最適な意思決定とは何か?」というテーマについてもお話しできますので、気になる方はぜひ、「瀧本ゼミ新歓説明会」にいらっしゃってください。

出典

[1]野村総合研究所 (2015)「日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に ~601 種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算~ 」
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf
[2]辻枝里(2018年7月18日)「AIが自分で書いた日本語記事『1148字』」プレジデントオンライン(最終閲覧日:2019年3月24日)
http://news.livedoor.com/article/detail/15027113/
[3]クローズアップ現代+「進化する人工知能 ついに芸術まで!?」(最終閲覧日:2019年3月24日)
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3836/1.html
[4]SankeiBiz(2017年11月22日)「三菱UFJ銀、6000人減方針 35年度末まで 100店舗『機械化』」(最終閲覧日:2019年3月24日)
https://www.sankeibiz.jp/business/news/171122/bse1711220500004-n1.htm
[5]日本経済新聞(2018年9月21日)「インターン人気、ANAが首位 20年卒の就活占う」(最終閲覧日:2019年3月24日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35617320R20C18A9000000
[6]武居良明(1974)「イギリス産業革命期における公衆衛生問題」社会経済史学、第40巻、第3 号 p.314
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sehs/40/4/40_KJ00002434036/_pdf/-char/ja
[7]小野塚知二(2018)『経済史 いまを知り、未来を生きるために』有斐閣
[8]同上
[9]小野塚知二編(2014)『第一次世界大戦開戦原因の再検討』岩波書店
[10]渡邊啓貴(2019年1月23日)「フランス『黄色ベスト運動』の背景と政局」(最終閲覧日:2019年3月24日)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/313069.html
[11]トマ・ピケティ(2014)『21世紀の資本』みすず書房
[12]経済産業省(2017)「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」http://www.meti.go.jp/press/2017/08/20170821001/20170821001-1.pdf
[13]情報産業労働組合連合会(2017)「ITエンジニアの労働実態調査2017概要」
https://www.joho.or.jp/tyousa/2017digest.pdf
[14]Lindley, J., & McIntosh, S. (2015). Growth in within graduate wage inequality: The role of subjects, cognitive skill dispersion and occupational concentration. Labour Economics, 37, 101-111.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S092753711500041X
[15]Carnevale, A. P., Cheah, B., & Hanson, A. R. (2015). The economic value of college majors.
https://cew.georgetown.edu/wp-content/uploads/Exec-Summary-web-B.pdf
[16]Park, K., & Jang, D. (2017). The wage effects of over-education among young stem graduates. The Singapore Economic Review, 1-20.
https://www.worldscientific.com/doi/abs/10.1142/S0217590817500059
[17]Deming, D. J. (2017). The growing importance of social skills in the labor market. The Quarterly Journal of Economics, 132(4), 1593-1640.
https://academic.oup.com/qje/article/132/4/1593/3861633?searchresult=1
[18]シナジーマーケティング株式会社「コモディティ化」『マーケティング用語集』(最終閲覧日:2019年3月24日)

コモディティ化


[19]ラリー・ダウンズ, ポール・F・ヌーネス(2016年3月22日)「富士フイルムが勇敢にも飲み込み、コダックが飲めなかった『劇薬』の正体」ダイヤモンドオンライン(訳: 江口泰子、構成:廣畑達也)(最終閲覧日:2019年3月24日)
https://diamond.jp/articles/-/88041
[20]三木優(2009年7月13日)「2020年、あなたの会社は存在していますか?」日本総合研究所(最終閲覧日:2019年3月24日)
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=8900
[21]野口悠紀雄(2017年12月2日)「超整理日記883 金採掘時の成功法則は採掘者を採掘すること」週刊ダイヤモンド(最終閲覧日:2019年3月24日)
[22]酒井弘憲. (2014). 第4回 フローレンス・ナイチンゲールと統計. ファルマシア, 50(8), 800-801.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/50/8/50_800/_pdf
[23]Cohen, I. B. (1984). Florence nightingale. Scientific American, 250(3), 128-137.
http://accounts.smccd.edu/case/biol675/docs/nightingale.pdf
[24]総務省統計局「ナイチンゲールと統計」(最終閲覧日:2019年3月24日)
https://www.stat.go.jp/teacher/c2epi3.html

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