自閉症は適切な療育により社会予後の改善が可能。客観的なスクリーニング方法により早期発見を。

サマリー

  • 自閉症スペクトラム障害(ASD)をもつ人は、小児・青年期のうつ病などの精神疾患のリスクが高いことがわかっていますが、早期発見および適切な療育により、ASDの症状が改善されるだけでなく、成人期のQOLも向上します。
  • 現在の1歳6か月健診および3歳児健診は、保健師等による主観的な判断に基づいてスクリーニングを行っているため、早期発見できる仕組みになっているとは言い難い現状です。
  • そのため、客観的に自閉症か否かを判断できる、M-CHATとPARS-TRというスクリーニング方法の導入が望まれます。

詳細

自閉症スペクトラム(Autistic Spectrum Disorders:以下ASD)は、対人関係に著しく困難を抱える・ごく限られたものにしか興味を示さないなどの特徴をもつ発達障害です。米国疾病管理予防センター(U.S. Centers for Disease Control and Prevention)の報告書では、11州の8歳児 325,483人を調べたところ、およそ59人に1人がASDでした[1]。日本の2-5歳児12,263人を対象とした調査では、有病率は0.13%と報告されています[2]。ASDをもつ人の中には、周囲の人々の理解が得られず苦しむ人が少なくありません。ASDをもつ成人はそうでない人と比べてうつ病、不安神経症、双極性障害、強迫神経症、統合失調症、自殺企図などの精神上の問題を抱える割合が有意に高い[3]ことが分かっています。この傾向は小児・青年においても同様で、ASDをもつ児童・青年は抑うつと不安障害のリスクが高い[4]ことが報告されています。

こうした問題を解決するためには、ASDの早期発見と適切な療育が重要です。18-49歳の自閉症患者150人を対象とした質問紙調査によると、QOLに影響を及ぼす説明変数は、①3歳以下での診断があること(β=0.22, p=0.05)及び②母親の支援があることでした[5]。つまり、3歳以下という早期に自閉症の診断を受け、かつ母親など周囲の支援を受けることができれば、ASDをもつ人のQOLは改善する可能性があるということです。実際に、ASDの子どもをもつ親に対して療育トレーニングを行うことで、ASD児の言語能力の向上および対人コミュニケーションの改善[6]、かんしゃくや自傷などの破壊的行動の減少[7]などの社会的予後の改善効果があることが明らかになっています。国立成育医療センターが実施した国内外の就学前自閉症療育のプログラムのランダム化比較対照試験のメタ解析によっても、対人相互交流の能力が伸び、その後の社会予後を改善しうることが明らかになっています[8]。したがって、ASDをもつ子どもを早期に発見することができれば、親に対する療育トレーニングによって様々な症状が軽減できると考えられます。
しかし、ASDの子どもを早期に発見する仕組みは現状では不十分です。厚生労働省の調査では、地方自治体のうち、1歳6カ月健診において88.0%が、3歳児健診においては87.7%が「発達障害の早期発見のための対策を立てている」と回答しています[9]。その方法は、健診の問診票に子どもの発達に関する質問項目があり、これを基に保健師の方などが自閉症の疑いがあるか判断するというものが主流です。しかし、厚生労働省の乳幼児を対象とする研究で、顕著な発達障害の特性を示す層の割合(有病率) は1.6%(推計)となっていますが、調査が行われた一部の地方自治体のうち、1歳6か月児健診で4/23市町村、3歳児健診 で3/24市町村において、これを下回る発見割合(0.2%~1.3%)となっており、発見漏れの可能性が高い例は少なくないと考えられます[10]。この原因として、健診の際に用いられている方法が主観的であることが考えられます。

したがって、1歳6カ月健診および3歳児健診で行うことができる、より客観的なスクリーニング方法が必要です。1歳6カ月健診時に可能なスクリーニング方法としては、M-CHAT(Modified Checklist for Autism in Toddlers;乳幼児期自閉症チェックリスト修正版)が挙げられます。M-CHATは、米国で開発された16~30カ月児を対象とする23項目の親回答による、はい・いいえ式質問紙であり、現在、多くのガイドラインで推奨され、世界各国で用いられています[11]。米国の小児18,989人をスクリーニングし追跡した研究では、M-CHATの陽性的中率(陽性と判断されたケースのうち実際にASDと診断される割合)は54%であることが報告されており、ASDだけでなく発達上の問題を抱えているケースも含めると陽性的中率は98%と極めて高い精度を示しています[12]。日本の小児を対象とした研究においても、陽性的中率は約46%と高い精度が報告されています[13]。M-CHATを用いてカットオフ値を定めてスクリーニングすることにより、客観的に自閉症か否かを判断することができます。そして次に、3歳児健診にPARS-TR(Parent‒interview ASD Rating Scale‒Text Revision:親面接式自閉スペクトラム症評定尺度テキスト改訂版)を導入することが望まれます。PARS-TRは、幼児から成人までを対象とし、親や養育者への面接から得られた情報をもとに専門家が評価するスクリーニング方法です。対人、コミュニケーション、こだわり、常同行動、困難性、過敏性のジャンルからそれぞれを把握する質問項目からなり、評定は、なし(0点)、多少目立つ(1点)、目立つ(2点)の三段階で行われます。PARS-TRの信頼性を検討した研究では、カットオフを5~8点にすることで、感度・特異度が共に0.9程度の極めて高い値が得られています[14]。

上記のエビデンスに基づき、M-CHAT、PARSの使用は厚生労働省からも推奨されています[10]。しかしながら、現在、M-CHATは1歳6か月児健診において全体の5%の市町村でしか用いられておらず、PARS-TRは3歳児健診において0.7%の市町村でしか用いられていません[15]。このため、総務省は、厚生労働省は乳幼児健診におけるM-CHATやPARSといった先進的なアセスメントツールの推進を図っているが、 市町村における活用は低調で、普及は進んでいないことを指摘しています[10]。
以上より、日本の市区町村は、1歳6か月健診においてM-CHAT、3歳児健診においてPARS-TRによる健診の積極的な導入を進めることが必要です。

まとめ

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、有病率は約0.1%とされており、小児・青年期のうつ病などの精神疾患のリスクが高いことがわかっています。しかし、早期発見および適切な療育によって、ASDの症状が改善されるだけでなく、成人期のQOLも向上します。したがって、早期発見と療育が重要です。しかし、現在の1歳6か月健診および3歳児健診は、保健師等による主観的な判断に基づいてスクリーニングを行っているため、十分に早期発見ができているとは言えません。そのため、客観的に自閉症か否かを判断できる、M-CHATとPARS-TRをそれぞれ1歳6カ月健診・3歳児健診に導入することが望まれます。

参考文献

[1]Baio J, Wiggins L, Christensen DL, et al. Prevalence of Autism Spectrum Disorder Among Children Aged 8 Years — Autism and Developmental Disabilities Monitoring Network, 11 Sites, United States, 2014. MMWR Surveill Summ 2018;67(No. SS-6):1–23.
[2]Sugiyama, T., & Abe, T. (1989). The prevalence of autism in Nagoya, Japan: a total population study. Journal of Autism and Developmental Disorders, 19(1), 87-96.
[3]Croen, L. A., Zerbo, O., Qian, Y., Massolo, M. L., Rich, S., Sidney, S., & Kripke, C. (2015). The health status of adults on the autism spectrum. Autism, 19(7), 814-823.
[4]Strang, J. F., Kenworthy, L., Daniolos, P., Case, L., Wills, M. C., Martin, A., & Wallace, G. L. (2012). Depression and anxiety symptoms in children and adolescents with autism spectrum disorders without intellectual disability. Research in autism spectrum disorders, 6(1), 406-412.
[5]Kamio, Y., Inada, N., & Koyama, T. (2013). A nationwide survey on quality of life and associated factors of adults with high-functioning autism spectrum disorders. Autism, 17(1), 15-26.
[6]Meadan, H., Ostrosky, M. M., Zaghlawan, H. Y., & Yu, S. (2009). Promoting the social and communicative behavior of young children with autism spectrum disorders: A review of parent-implemented intervention studies. Topics in Early Childhood Special Education, 29(2), 90-104.
[7]Postorino, V., Sharp, W. G., McCracken, C. E., Bearss, K., Burrell, T. L., Evans, A. N., & Scahill, L. (2017). A systematic review and meta-analysis of parent training for disruptive behavior in children with autism spectrum disorder. Clinical child and family psychology review, 20(4), 391-402.
[8]Tachibana, Y., Miyazaki, C., Ota, E., Mori, R., Hwang, Y., Kobayashi, E., … & Kamio, Y. (2017). A systematic review and meta-analysis of comprehensive interventions for pre-school children with autism spectrum disorder (ASD). PloS one, 12(12), e0186502.
[9]厚生労働省(2009)「乳幼児健康診査に係る発達障害のスクリーニングと早期支援に関する研究成果 ~関連法規と最近の厚生労働科学研究等より~」最終閲覧2019年2月8日https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken15/dl/05_0002.pdf
[10]総務省(2017)「『発達障害者支援に関する行政評価・監視』の勧告に対する改善措置状況」http://www.soumu.go.jp/main_content/000524503.pdf
[11]平岩幹男(2016)「データで読み解く:発達障害」,中山書店https://www.nakayamashoten.jp/sample/pdf/978-4-521-74371-4.pdf
[12]Chlebowski, C., Robins, D. L., Barton, M. L., & Fein, D. (2013). Large-scale use of the modified checklist for autism in low-risk toddlers. Pediatrics, 131(4), e1121-e1127.
[13]Kamio, Y., Inada, N., Koyama, T., Inokuchi, E., Tsuchiya, K., & Kuroda, M. (2014). Effectiveness of using the Modified Checklist for Autism in Toddlers in two-stage screening of autism spectrum disorder at the 18-month health check-up in Japan. Journal of autism and developmental disorders, 44(1), 194-203.
[14]安達 潤,行廣隆次,井上雅彦ら(2008).広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度(PARS)短縮版の信頼性・妥当性についての検討,,精神医学,50(5), pp431-438.
[15]一般社団法人日本臨床心理士会「乳幼児健診における発達障害に関する 市町村調査 報告書」

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