クールビズの推奨温度・学校環境衛生基準に科学的根拠なし。高温な室内は作業効率・成績の低下に。

サマリー

  • 環境省が推奨するクールビズの「冷房時の室温28℃」、学校環境衛生基準の望ましい温度「17℃以上28℃以下」には科学的根拠がない。
  • 冷房設定温度28℃の不満足者率は高く、また、室温が高いほど作業効率が低下し、学業成績にも影響する。
  • クールビズの冷房設定時の室温、学校環境衛生基準における望ましい温度基準の上限を28℃から26℃に変更するべきである。

詳細

昨年の夏は愛知県で小学生が熱中症で死亡するという痛ましい事件がありました[1]。学校内で学生が熱中症で倒れる事件は各地で数多く報告されており、学校の体制の見直しだけでなく、冷房の設置が求められています。実は冷房は学生の健康だけでなく、成績や作業効率にも大きな影響を及ぼします。また、クールビズの基準となった室温28度以下という基準は何となく決められていたことが当時の担当課長によって明らかにされ問題となりましたが[2]、オフィスエアコンの最適温度に関しては多くの研究が行われてコンセンサスが取れており、また、室温が学業成績に及ぼす影響についても研究が行われています。

クールビズでは冷房設定時の室温を28℃にすることが推奨されています。しかし、空気調和・衛星工学会からの提言によると、28℃という温度は労働安全衛生法の「事務所衛生基準規則」における室内温度の管理基準(17~28℃)の上限値、つまり許容最低限度の上限値にすぎず、ましてや冷房温度設定の推奨値として設定するのは間違っていると断言しています[3]。2016年に三菱電機ビルテクノサービスが会社員1000人に行った調査[4]によると、実際に28℃に温度設定しているオフィスは全体の28.2%、27℃は16.6%、26℃は18.4%であり、28℃設定が最多となっているのが現状です。実際にクールビズ期間に対象オフィスの冷房設定温度を28℃とし、執務者105名に退勤時の際に執務環境の評価アンケートを実施した研究[5]では、7月期・8月期の退勤時の温熱環境に関する不満足者率は70%を超えており、室内の温度が高いほど疲労の増加率も高くなるという結果も出ています。一方で、温熱環境に関する満足度が高いと主観作業能力は高く、疲労度は低くなります。具体的には、周辺温度が25℃以上の時、室温が高いほど作業効率が低下するという研究結果が多数存在しており、生産性が低下しない最大の温度は25~26℃、21~25℃の間では生産性は温度の影響を受けないと推定する報告もあります[6]。25℃以上では1℃の室温上昇が2%程度の生産性の低下に相当するという研究結果もあります[6][7][8]。また、室温を低下させることで空調用電力消費量の変化がもたらす経済的影響は、作業効率の変化による経済的影響よりはるかに小さくなる結果となっており、経済性を考慮しても室温を低下させる必要があると考えられます。


さらに、オフィスビルだけでなく学校での温熱環境も問題視されています。今年の4月に学校環境衛生基準における教室の望ましい温度は、「10℃以上30℃以下」から「17℃以上28℃以下」に変更されましたが、全国の小中学校の空調の設置率は41.7%に留まっており[9]、適正な温度環境は実現していないのが現状です。
近年では学校で熱中症による死亡事故も起こっており、教育現場の温熱環境の整備は喫緊の課題とも言えます。

教育現場の温熱環境は学習効果や成績にも影響すると指摘する研究[10]があり、それによると短期間の分析では、屋外の温度が22℃を超えると数学の成績は低下し、26℃を超えると数学の認知能力は有意に低下すると述べられています。
他にも、地方の日常気象データと2001~2014年にPSATの試験を何度も受けたアメリカ人高校生のテストスコアを結びつけ、学校における空調設置が認知能力の発展を阻害する累積熱曝露の影響を軽減できることを示した報告[11]があります。この報告によると、

  • 空調がない学校の生徒は、気温が1℃上昇すると標準偏差が0.01026低下する。
  • 空調は暑さが学習に与える影響を73%割り引く。
  • 空調で2.78°C(5°F)の室温上昇を抑制すると、生徒1人あたり年間1060ドル、1つの教室あたり26500ドル、1つの高校あたり100万ドルの損失を予防できる。

といった結果が出ています。
日本でも冷房の導入によって、28℃を超える時間が60%から10~30%に減少したという報告があり[12]、冷房の導入は効果的だと考えられます。以上のことから、行政は現状、クールビズの指針と学校環境衛生基準の推奨室温の上限を28℃としていますが、26℃より低く変更し、小中学校のエアコン設置をより一層促進する必要があります。

まとめ

学生の熱中症による被害が大々的に報じられることで、健康面から冷房の必要性が認められ始めています。しかし、実は学業・労働効率的な面からも室温、及び室温を管理する冷房のインパクトは大きい一方で、行政の設定する室温基準は不十分です。そのため、行政は望ましい室温を26℃以下に変更し、小中学校へのエアコン設置を促進すべきです。

出典

[1] 朝日新聞DIGITAL (2018). 「小1男児が熱中症で死亡 校外学習中に『疲れた』訴え」
https://www.asahi.com/articles/ASL7K5DNSL7KOIPE01B.html 最終アクセス日:2019年2月14日
[2] HUFFPOST (2017). 「クールビズの冷房28度、当時の環境省課長『何となく決めた』科学的根拠なし」https://www.huffingtonpost.jp/2017/05/11/cool-biz_n_16555154.html 最終アクセス日:2019年2月14日
[3] 空気調和・衛生工学会 温熱環境委員会(2016) , 我慢をしない省エネへ ―夏季オフィスの冷房に関する提言ー
http://www.shasej.org/iinkai/gamanwoshinaisyouene/gamanwoshinaisyouene.pdf
[4] 三菱電機ビルテクノサービス (2016) ビジネスパーソン 1,000 名に聞く、夏のオフィスのエアコンに関する意識と実態調査
http://www.meltec.co.jp/press/__icsFiles/afieldfile/2016/07/07/AC.pdf
最終アクセス日:2018年8月19日
[5] 羽田正沖, 西原直枝, 中村駿介, 内田智志, & 田辺新一. (2009). 夏季室温緩和設定オフィスにおける温熱環境実測および執務者アンケート調査による知的生産性に関する評価. 日本建築学会環境系論文集, 74(637), 389-396.
[6] Seppanen, Olli Fisk, William J. Faulkner, David(2003),Cost benefit analysis of the night-time ventilative cooling in office building, Lawrence Berkeley National Laboratory
[7] 小林弘造, 北村規明, 田辺新一, 西原直枝, 清田修, & 岡卓史. (2005, July). G-59 コールセンターの室内環境が知的生産性に与える影響. In 空気調和・衛生工学会大会 学術講演論文集 平成 17 年 (pp. 2053-2056). 公益社団法人 空気調和・衛生工学会.
[8] 多和田友美, 伊香賀俊治, 村上周三, 内田匠子, & 上田悠. (2010). オフィスの温熱環境が作業効率及び電力消費量に与える総合的な影響. 日本建築学会環境系論文集, 75(648), 213-219.
[9] 文部科学省 報道発表 公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況調査の結果について
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/06/__icsFiles/afieldfile/2017/06/09/1386475_01.pdf
最終アクセス日:2018年9月28日
[10] Joshua S. Graff Zivin, Solomon M. Hsiang, and Matthew J. Neidell(2015) ,Temperature and Human Capital in the Short- and Long-Run, NBER Working Paper No. 2115
[11] Joshua Goodman Michael Hurwitz Jisung Park Jonathan Smith (2018),Heat and Learning,Faculty Research Working Paper Series
[12] 岩下剛, & 古賀隆文. (2009). 冷房導入前後の小学校普通教室における夏季の温熱・空気環境の実態に関する研究. 日本建築学会環境系論文集, 74(641), 877-882.

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