日本の病院外突然死は年間7万人以上、効果的なAED普及策によって救命率向上が可能に

サマリー

  • 日本の病院外の突然死の多くは心臓が止まる事によるものであり、年間7万人を超える
  • 心臓マッサージとAEDの使用により生存率を4倍に上昇させることができる
  • 戦略的なAED配置と短時間の簡素な心肺蘇生教育が重要であることが様々なエビデンスから示唆されており、地域単位での包括的な介入やソーシャルアプリを用いた救命活動が必要とされている

本文

病院外での突然死の多くは心臓が原因です。心臓が止まると、人はおよそ 10 分で死に至ります。そして生存率は、心停止から 1 分ごとに 10% 低下します[1]。救急車の到着平均時間が8分であり、何もしなければ、救急車が到着した時点では生存の見込みはかなり低くなります。日本でも救命行為が行われなかった病院外心停止例の救命率は10%程度です[2]。

しかし、AED (自動体外式除細動器) を使用することができれば、生存率は大きく上昇します。AED は、心臓に電気ショックを与え、正常なリズムを取り戻すための装置です。心停止が発見され、AED が使用された場合の救命率は 50% 以上となっています[2]。これは救命措置が行われなかった場合の4.5倍以上になります。実際に、日本の疫学研究においてプロペンシティスコアを用いた背景マッチングでのAEDの社会復帰率への効果は2倍、心臓マッサージの効果も2倍程度と見積もられており、AEDと心臓マッサージの効果の救命率への効果は行われなかった場合に比べ、4倍程度と考えられています[3]。またAEDは早期に使用するほど効果が高く、3分以内に使用した場合には救命率は70%程度になるとの報告もあります[4]。

ところが、心停止時点を目撃された人約25,000人のうち、実際に AED を使用されたのはたったの 4.7%です[2]。AED の戦略的設置と使用方法の普及が行われれば、年間1万人以上、今まで救えていなかった人を救える可能性があります。実際、日本AED財団がまとめたstatementでも設置と使用の普及が必要である事が触れられており、これらの問題に取り組む必要があります。

AEDの設置に関しては、心停止発生頻度が高い場所への設置が望ましいとされています。日本での心停止高頻度場所として、公共施設、駅・鉄道、空港、スポーツ施設、学校、大規模商業施設・大規模集客施設、公衆浴場、温泉、遊興施設、常時成人が 250名以上いる場所・施設などが挙げられています[5]。特に戦略的な配置を行なった例としてスウェーデンの研究が挙げられます。ストックホルムで2006-12年までの間に発生した病院外心停止とその間の戦略配置プログラムを後ろ向きに評価し、配置プログラムではショッピングモール、交通機関、空港等の大規模施設の管理者・安全担当者に向けて戦略配置と教育、 管理指導などを行ないました。介入ではプログラムによる設置AEDは、全ての2.6%から構成されるAEDで、AED使用症例の28%を占め、戦略的に配置を行なったAEDの除細動は救命率も70%と最も高かったことが報告されています[6]。

上記のような包括的な戦略的介入策の一つとして条例による設置推奨があります。例えば、千葉県は私たちの提案を元にAEDの使用及び心肺蘇生法の実施の促進に関する条例を制定し、スポーツ施設、学校、設置率を県で把握、県有施設ではAED場所の表示・点検 ⺠間施設 には働きかけを行うことを明記、救命率目標を設定し、毎年介入を改善することを明記し、それを行なっています[7]。同様の設置や普及に関する条例は茨城県や横浜市でも行われています[8][9]。

さらに近年ではAEDのコンビニエンスストア、交番、パトカーへの設置も重要視されています。心肺停止は、夜間、早朝に多いことが知られ、日中に発生する心停止は全体の4割に過ぎない事が報告されています[10]。一方で夜間に使用できるAEDの数は激減することが知られ、尾張旭市の調査[11]、つくば市の調査[12]などでも、ほとんどのAEDが使用できなくなることが報告されています。このような問題に対して、AEDのパトカー、警察へのAED配備を行なっている取り組みは数多くあります。日本では神奈川県や東京都がパトカーや交番へのAED設置を行なっていますが、まだそれらの地域以外に取り組みは広がっていません。実際に警察官によるAEDの使用を行なっている研究に関して生存率を評価している文献をメタアナリシスで評価した報告では調査群の加重平均生存率は、対照群の生存率よりも高く、介入による生存率は1.4倍(95%CI:1.3-1.6)となることが報告されています。実際に、AED使用時間の短縮も見られ、AEDが早期に使用されることが救命に繋がっていると考えられました[13]。コンビニに関してはエビデンスがまだ十分ではありませんが、救命事例は報告され始めており[14]、導入自治体も徐々に増えつつあります[15]。

使用法を普及するための講習に関しては、短期間で簡易な講習が望ましい事が様々な研究で示されています。例えば、2010年までの文献をシステマティックレビュー、メタアナリシスを行なったYeungらの報告では、短時間での訓練でも、パッド装着やショックまでの時間を短縮できることが示されています[16]。実際にこれらのエビデンスを元に日本蘇生協議会(JRC)のガイドラインでも、頻回、低容量の実施が推奨されています[17]。具体的には、1時間未満の講習でも良いとされています。また、先のYeungらの研究では必ずしもトレーニング提供者が専門家である必要はなく、普及拡大を考えると、消防による救命講習以外での蘇生教育も重要と考えられます。さらに近年では、人工呼吸は蘇生に対して効果がないというエビデンスも報告されており、胸骨圧迫のみの実施で十分と考えられています[18]。実際に、PUSHプロジェクトは、短時間(45分)での胸骨圧迫とAEDの使用のみのトレーニングで、エビデンスに基づいた心肺蘇生教育を推進しています[19]。医療関係者だけでなく、スポーツ関係者、学校関係者、一般市民など多くの人が参加して、学校、スポーツ現場、公共施設などで繰り返し講習が行われており、上記の推奨に沿った内容と考えられます。

最後にAEDの効果的な使用について有望な施策として、ソーシャルアプリケーションを活用したAED搬送技術があります。これについてはストックホルムでのRCTが有名です。ストックホルムで2012年から2015年にかけて救急車、消防、警察のサービスが派遣されたときに起動された携帯電話の場所測定システムを利用して、患者500m以内の訓練を受けたボランティアを派遣し、ボランティアは患者に派遣・派遣なしにランダムに割付を行いました。ボランティアは9829人動員され、667人の心停止が発生し、バイスタンダーによる心肺蘇生実施率は、intervention 群では62%(188/305人)、対照群では 48%(172/360人) 305名中70名(23%)が、ボランティアによる心肺蘇生を受け、有意に心肺蘇生を受けた人が多いという結果になりました(intervention vs control の絶対差:14%ポイント 95%CI:6~21; P <0.001)[20]。同様の取り組みはオランダ[21]や日本での尾張旭市[22]でも行われており、近年では千葉県柏市が導入を決定し、注目を集めています[23]。私たち瀧本ゼミも上記取り組みを拡大する準備を進めています。

まとめ

心臓マッサージとAEDの早期の使用によって、1万人以上もの命を救うことができますが、目撃心停止例にAEDはほとんど使用されていません。AEDを戦略的に配備することで、救命が可能であり、自治体は公共施設、駅・鉄道、空港、スポーツ施設、学校、大規模商業施設・大規模集客施設などへの設置を行うべきです。またAEDを使うことのできる人を増やすために、そのような施設での講習を推奨、義務化すべきです。またその手段として、条例の制定は有用な方法と考えられます。また自治体は短時間(1時間以内)の講習を推奨し、一般人を含めた講習を推進、支援すべきです。ソーシャルメディアの活用によるAEDの搬送と使用、 心臓マッサージの施行は救命率をさらにあげる可能性があり、自治体は積極的に検討すべきと考えられます。

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出典

[1] AHA. 心肺蘇生救急心血管治療のための国際ガイドライン 2000
[2] 平成29年 消防庁 救急・救助の現況
[3] Kitamura T, Kiyohara K, Sakai T, Matsuyama T, Hatakeyama T, Shimamoto T, Izawa J, Fujii T, Nishiyama C, Kawamura T, Iwami T. Public-Access Defibrillation and Out-of-Hospital Cardiac Arrest in Japan. N Engl J Med. 2016 Oct 27;375(17):1649-1659.
s[4] SOS-KANTO Committee. Circ J 2005; 69: 1157-1162
[5] 一般財団法人日本救急医療財団(2013)「AEDの適正配置に関するガイドライン」
[6] Ringh M et al. Survival after Public Access Defibrillation in Stockholm, Sweden–A striking success. Resuscitation. 2015 Jun;91:1-7.
[7] 千葉県AEDの使用及び心肺蘇生法の実施の促進に関する条例 2018年 3月16日 千葉県AED等普及促進計画の策定について https://www.pref.chiba.lg.jp/iryou/taiseiseibi/aed/aed-keikaku.html
[8] 横浜市救急条例 2008年 10月1日 http://www.city.yokohama.lg.jp/shobo/qq/sonota/20130325215930.html
[9] 茨城県AED等の普及促進に関する条例について 2016年9月13日
http://www.pref.ibaraki.jp/hokenfukushi/iryo/iryo/isei/div/system/emergency/aed/jorei.html
[10] Bagai A et al. Temporal differences in out-of-hospital cardiac arrest incidence and survival. Circulation. 2013 Dec 17;128(24):2595-602.
[11] AEDの最適配置と管理運営実態に関する提案 〜つくば市をケーススタディとして〜 筑波大学 伊藤彰良ら 2014.
[12] NHK 夜間・休日 いつでもAEDを[「ニュースウオッチ9」より] 2014年8月7日に公開 https://www.nhk.or.jp/d-garage-mov/movie/90003-10.html
[13] Yeung J et al. Police AED programs: a systematic review and meta-analysis. Resuscitation. 2013 Sep;84(9):1184-91.
[14] コンビニ店員がAED救命 2月 16 日、市が感謝状を贈呈 枚方市
https://www.city.hirakata.osaka.jp/cmsfiles/contents/0000006/6667/93716.pdf
[15] 導入自治体は多数だが、近年のニュースでは、秋田県仙北市、栃木県下野市など
2018年1月17日 コンビニにAED設置 仙北市と4社が協定 秋田魁新報
https://www.sakigake.jp/news/article/20180117AK0022/
2017年10月18日 下野市、コンビニにAED設置 産経新聞
https://www.sankei.com/region/news/171018/rgn1710180054-n1.html
[16] Yeung J et al. AED training and its impact on skill acquisition, retention and performance–a systematic review of alternative training methods. Resuscitation. 2011 Jun;82(6):657-64.
[17] 日本蘇生協議会(JRC) ガイドライン 2015年.
[18] Iwami et al. Effectiveness of bystander-initiated cardiac-only resuscitation for patients with out-of-hospital cardiac arrest. Circulation. 2007 Dec 18;116(25):2900-7.
[19] Nishiyama C, Iwami T, Kitamura T, et al. Acad Emerg Med. 2014 ;21:47-54.
[20] Ringh M et al. Mobile-phone dispatch of laypersons for CPR in out-of-hospital cardiac arrest. N Engl J Med 2015; 372:2316-2325.
[21] Zijlstra JA, Stieglis R, Riedijk F, et al:Local lay rescuers with AEDs, alerted by text messages, contribute to early defibrillation in a Dutch out-of-hospital cardiac arrest dispatch system. Resuscitation. 2014;85:1444-1449
[22] ~ 119 番通報と連携しスマートフォンアプリでAEDを心停止現場へ届ける実証実験 〜 心停止現場へAEDを 愛知県 尾張旭市消防本部 http://www.fdma.go.jp/ugoki/h2901/2901_30.pdf
[23] AED 迅速活用を 「運搬システム」実証実験へ 柏市消防局、救命講習受講者にアプリで設置場所通知 /千葉 毎日新聞 2018年12月12日 https://mainichi.jp/articles/20181212/ddl/k12/040/118000c

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