日本の教室の換気設備の設置率は30%。軽視される換気環境の改善を。

サマリー

  • 教室の換気率の向上は、生徒の認知力の向上・出席率の改善などをもたらします。
  • しかし、日本の教室換気基準は世界的に見ても低く、十分な換気がなされていません。
  • 外気の温度を室内温度に近づけて換気をする全熱交換換気システムの導入が効果的です。

本文

日本では、小学生などの熱中症による被害が世論で問題視されていることなどを受けて、冷房設備の導入を目指す学校が増えています[1]。しかし、実は教室内の温度だけでなく、換気状況も生徒の教育・健康に対して大きな影響を及ぼします。
具体的には、換気は認知能力をはじめとした学習成績を向上させます。イギリスの小学校で行われた実験の報告によると、外気を取り入れた教室の生徒は外気を取り入れなかった教室の生徒に比べて、3種のテストにおいて、2.2%から14.8%の認知能力の向上がみられ、中でも複雑な認知を必要とするテストの成績は、単純な認知能力を測るテストの成績より大きな差が見られました[2]。学業に与える影響については、言語能力や算数の能力を測るテストの正答率は変わらないまま回答速度が14%向上した[3]ことが報告されています[4]。
他には、換気により、生徒の健康を守ることができます。換気不足により、揮発性有機化合物(VOC)や粒子状物質(PM)などの人体に直接有害な物質の濃度を上昇させることがわかっています[5]。一部のVOCに1μg/㎥多く曝露することで、喘息を1.99倍(95%Cl 1.05-3.77)にすると報告されています[6]。更に、室内で風邪などの感染症にかかるリスクも向上すると考えられています[7]。実際に、換気不足だったり、換気環境に問題のある教室における病気を理由にした欠席率は、そうでない教室に比べて高くなることが報告されています[8][9]。

それでは、日本の換気環境を考えてみると、世界的にみてかなり低いと言わざるを得ません。海外の多くの先進国が一人当たり8リットル/秒の換気量を要求しているのに対して、日本の教室の換気基準は、一人当たり約2.7リットル/秒にとどまっています[10]。また、換気の参照値として扱われる室内二酸化炭素(CO2)濃度も海外では1000ppm以下を要求されているのに対して、日本の教室環境衛生基準では、1500ppm以下しか要求していません[11]。
また、平成17年に全国の公立小学校6地域568校を対象とした調査によると、たった26%しか機械換気設備が備え付けられていないことが明らかになりました[12]。
加えて、そもそも換気設備の使用基準を認知している学校が全体の1割を下回っていたことも同調査で明らかにされました。これらの調査結果を踏まえると、日本の教室は窓開け等による自然換気が基本になっていると考えられます。
しかし、これまでの研究から自然換気は換気効率が十分ではないことがわかっています。既存の自然換気のデータ(182校287教室)と機械換気のデータ(220校900教室)を比較すると、それぞれの換気の種類における、室内CO2濃度が1000ppmを下回る教室の割合は、自然換気下の教室が機械換気下の2倍でした(25%v.s.52%)[13]。

実際、冬期の教室は、日によっては室内二酸化炭素濃度が建築基準法で定められている1000ppmをほぼ常に超えており、学校衛生環境基準で定められている1500ppmでさえも超えている時間が授業時間全体の50%を超えることが報告されています[14]。

以上から、適切な換気を行い室内環境を良好に保つために、学校に全熱交換換気システムを導入することを提案します。
全熱交換換気システムの利点は3点あります。
まず、全熱交換換気システムは機械換気であり、前述の通り十分な換気効率を実現できます。
また、外気を室内温度に近づけて換気をするためエアコンと併用しても室内温度が適温のまま保たれやすいからです[15]。自然換気を行っている場合、換気により室温が低下もしくは上昇するため、冷暖房使用期間の換気インセンティブが低下することが考えられます。実際、日本の報告によれば、冷房導入前後の夏の教室の室内CO2濃度を比較すると、全測定教室を平均して670ppmから1230ppmへ560ppm増加したことが確認されました[16]。

加えて、全熱交換器であれば換気を行っても室温の変動が小さくなるので、自然換気や外気をそのまま取り入れる機械換気と比べてエアコン代の節約にもなります。具体的な試算では、教室ほどの大きさだと約49000円/年程の節約になると試算されます[17]。

全熱交換換気システム導入には当然ながら一定のコストが発生します。
例えば、アメリカの報告では、8地域で機械換気によって換気量を倍増させた場合(9.4リットル/秒/人→18.8リットル/秒/人)のエネルギーコストや環境負荷の増加、生産性の増加をシミュレートしたところ、コストは+6.06ドル/人/年(+25.96ドル/人/年)、環境負荷は-13.86%(+45.86%)となりました。もっとも、同時に生産性は+6500$/人/年増加しており[18][19]、単純計算して、換気の倍増による生産性の向上はコストの上昇の150倍以上になります。

仮に日本の学校で導入した場合、導入コストは1教室当たり約80万円、耐用年数が10年以上ということを考慮すると、一年あたりの1生徒の負担額は約2000円と試算されます[20]。ランニングコストは1教室当たり年25000円ほどになると考えられますが、この金額は換気による教育への貢献を考えればそれほど大きな支出ではないと言えるでしょう。

まとめ

教室の換気は生徒の教育・健康という観点から非常に大事であり、それに対してコストは大きくないものであると言えます。しかし、日本においては換気が重要視されておらず、換気基準が低いです。さらに近年急速に進んでいるエアコンの導入も換気のインセンティブを低下させています。しかし換気設備は比較的簡単に解決できる問題でもあります。教室の換気状況を見直し、全熱交換換気システムを導入することが望ましいと考えられます。

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出典

[1] 文科省、教室のエアコン導入など施設整備費2400億円要求へ. (2018/8/22). 日本経済新聞電子版 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34453740S8A820C1CR8000/ 最終閲覧日 2019年1月31日
[2] Bakó-Biró, Z., Clements-Croome, D. J., Kochhar, N., Awbi, H. B., & Williams, M. J. (2012). Ventilation rates in schools and pupils’ performance. Building and Environment, 48, 215–223. https://doi.org/10.1016/j.buildenv.2011.08.018
[3] 有意に改善がみられた項目に限った場合の平均
[4] Wargocki, P., & Wyon, D. P. (2013). Providing better thermal and air quality conditions in school classrooms would be cost-effective. Building and Environment, 59, 581–589. https://doi.org/10.1016/j.buildenv.2012.10.007
[5] Fromme, H., Twardella, D., Dietrich, S., Heitmann, D., Schierl, R., Liebl, B., & Ru¨den, H. R. (2007). Particulate matter in the indoor air of classrooms-exploratory results from Munich and surrounding area. Atmospheric Environment, 41, 854–866. https://doi.org/10.1016/j.atmosenv.2006.08.053
[6] Kim, J. L., Elfman, L., Mi, Y., Wieslander, G., Smedje, G., & Norbäck, D. (2007). Indoor molds, bacteria, microbial volatile organic compounds and plasticizers in schools ? associations with asthma and respiratory symptoms in pupils. Indoor Air, 17(2), 153–163. https://doi.org/10.1111/j.1600-0668.2006.00466.x
[7] Myatt, T. A., Johnston, S. L., Zuo, Z., Wand, M., Kebadze, T., Rudnick, S., & Milton, D. K. (2004). Detection of Airborne Rhinovirus and Its Relation to Outdoor Air Supply in Office Environments. American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine, 169(11), 1187–1190. https://doi.org/10.1164/rccm.200306-760OC
[8] Simons, E., Hwang, S.-A., Fitzgerald, E. F., Kielb, C., & Lin, S. (2010). The impact of school building conditions on student absenteeism in Upstate New York. American Journal of Public Health, 100(9), 1679–1686. https://doi.org/10.2105/AJPH.2009.165324
[9] Mendell, M. J., Eliseeva, E. A., Davies, M. M., Spears, M., Lobscheid, A., Fisk, W. J., & Apte, M. G. (2013). Association of classroom ventilation with reduced illness absence: a prospective study in California elementary schools. Indoor Air, 23(6), 515–528. https://doi.org/10.1111/ina.12042
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[11] 文部科学省(2009年)学校衛生環境基準http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2009/04/01/1236264_9.pdf 最終閲覧日 2018年12月10日
[12] Yoshino, H., IINO, Y., TAKIZAWA, N., IWASHITA, G., KUMAGAI, K., KURABUCHI, T., … MURAMATSU, S. (2009). REGIONAL INSTALLING AND OPERATING CONDITIONS OF HVAC SYSTEMS IN PUBLIC ELEMENTARY SCHOOLS. J. Environ. Eng., AIJ, 74(639), 643–650. Retrieved from https://www.jstage.jst.go.jp/article/aije/74/639/74_639_643/_pdf
[13] Gaitani, N., Kolokotsa, D., Santamouris, M., Synnefa, A., Asssimakopoulos, M., Livada, I., … Assimakopoulos, V. (2008). Experimental investigation of the air flow and indoor carbon dioxide concentration in classrooms with intermittent natural ventilation. Energy and Buildings, 40(10), 1833–1843. https://doi.org/10.1016/j.enbuild.2008.04.002
[14] Go IWASHITA. (2007). DISCUSSION ON THE INDOOR AIR QUALITY IN CLASSROOM OF ELEMENTARY SCHOOL w ITHOUT HEATING EQUIPMENTS DURING WINTER SEASON BASED ON THE OPENING / CLOSING OF WINDOWS AND DOORS , AND THE CO2 CONCENTRATIONS. J. Environ. Eng., 618, 61–67. Retrieved from https://www.jstage.jst.go.jp/article/aije/72/618/72_KJ00004660374/_pdf
[15] 三菱電機(n.d.)「ロスナイとは」 換気扇・空気清浄機ロスナイ http://www.mitsubishielectric.co.jp/ldg/ja/air/products/ventilationfan/about/detail_03.html 最終閲覧日 2018年12月10日
[16] Inoue, G., & Koga, T. (2009). INDOOR AIR QUALITY AND THERMAL ENVIRONMENT IN CLASSROOM OF AN ELEMENTARY SCHOOL DURING SUMMER SEASON BEFORE/AFTER INSTALLING AIR CONDITIONER. J. Environ. Eng., 74(641), 877–882. Retrieved from https://www.jstage.jst.go.jp/article/aije/74/641/74_641_877/_pdf
[17] 三菱電機(n.d.)「教室用ロスナイ」 換気送風機総合カタログ、p.532
http://dl.mitsubishielectric.co.jp/dl/ldg/wink/wink_doc/contents/doc/WEB_CATA/S1758CA151A/pageview/data/target.pdf 最終閲覧日 2018年12月10日
[18] ()のない数値は全熱交換器を備え付けた場合の試算で、()内の数値は全熱交換器を備え付けなかった場合の試算。アメリカ8地域でのシミュレーション結果の平均をそれぞれ計算した。また、生産性は、高度な意思決定能力を測るテストの結果のパーセンタイルの上昇をオフィスワーカーの賃金のパーセンタイルに対応させた時の差分から推定した。
[19] MacNaughton, P., Pegues, J., Satish, U., Santanam, S., Spengler, J., Allen, J., … Allen, J. (2015). Economic, Environmental and Health Implications of Enhanced Ventilation in Office Buildings. International Journal of Environmental Research and Public Health, 12(11), 14709–14722. https://doi.org/10.3390/ijerph121114709
[20] 望ましい換気率は最低でも8l/s/p(室内CO2濃度が1000ppm)であり、1教室に入る人数は生徒40人+教師1人とする。すると、8l/s/p*41=328l/s=1180.8㎥/hが望ましい最低限の換気量になる。今回、学校向けの全熱交換器は三菱電機の学校用ロスナイしかないため、これを例として用いる。学校用ロスナイの換気量は1台当たり500㎥/h( SCH-50ESH2 )なので、約3台必要。[17]より、SCH-50ESH2は1台263000円だから263000*3=789000円。ロスナイのコアであるロスナイエレメントは10年で交換が必要だから、耐用年数を10年と見積もって、1年あたりの生徒1人の負担額は、789000/40/10≒2000円/人/年と算出された。

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