傍観者にアプローチするKiVaプログラムでいじめを減らす

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サマリー

  • 生徒の身体・精神に深刻な被害を与えるいじめは年間約32万件起こっているが、現在日本で行われているいじめ対策はあまり効果を上げていない。
  • いじめは単に「被害者―加害者」の二者間の問題ではなく、いじめを黙認・助長している傍観者の役割が重要であることが明らかになっている。
  • いじめにおいて重要な役割を果たしている「傍観者」にアプローチするKiVaプログラムの導入により、いじめを減らすことができる。

詳細

平成28年度の文科省の調査によると、学校側が把握しているだけでも年間約32万件ものいじめが発生しています[1]。そのうち生命や身体の安全を脅かすような重大な事態に至るおそれがあるものは約400件ありました[1]。いじめは生徒の身体的な安全を脅かすだけでなく、抑うつ症状や精神疾患などの精神的な面でも悪影響を及ぼす、深刻な問題です[2]。
一見、いじめは加害者と被害者の二者間の問題であるように思われるかもしれません。文科省や学校によるいじめ対策も、主にその二者に焦点を当てたものがほとんどです。例えばいじめ防止対策推進法の「基本的施策」では、相談体制の整備・加害生徒への出席停止などの処分・豊かな心を育むための道徳教育などが挙げられています[3]が、いずれもいじめの加害者と被害者の二者に焦点を当てたものとなっています。しかし、近年のレビューでも、いじめは単に二者間の問題ではなく、周囲の生徒(以下、「傍観者」という)や学校の雰囲気などいじめに対する態度が重要な役割を果たしていることが示唆されています[4]。フィンランドの小学生を対象としたある質問票調査では、傍観者のいじめ加害者を支持する行動と、いじめの頻度には強い相関関係があることが明らかになっています[5]。このことは、日本の中学校での 196 人に対する質問紙調査の結果から、傍観者の規範的圧力がいじめを抑制し防止に効果的であることからも支持されています[6]。一方で、傍観者による仲裁はいじめの抑制に効果的である[7]ことや、被害者をなぐさめるなどの行動は精神的な被害を和らげる[8]ことが分かっています。

海外では傍観者の果たす役割に注目が集まり、傍観者に介入することでいじめを減らすプログラムの研究が進んでいます。その中でも、唯一ランダム化比較試験による複数のエビデンスが存在するものがKiVaプログラムです。KiVaプログラムとは、フィンランドのいじめ対策公式プログラムであり、現在欧米を中心に多数の国や地域で導入されています[9]。プログラムは義務教育期間の児童生徒を対象としており、主にKiVaレッスンとKiVaゲームから構成されています[10]。KiVaレッスンとは、教室でクラス全員が一緒に参加し、いじめの構造についての講義を受けたり、実際にどんな行動がとれるのかをディスカッションしたりするというものです。KiVaゲームとは、いじめの場面を想定し、どう行動すべきかを考えるコンピューターシミュレーションゲームです。場面ごとに立ち止まり考えることができることや、相手の感情や考えが表示されることで現実には得にくいヒントが示されることなどにより、子どもが主体的かつ試行錯誤的にいじめへの対応の仕方を学ぶことができます。

KiVa プログラムの効果は複数の調査により示されています。フィンランド国内の小学1-3年生6,927人、中学2-3年生16,503人を介入群と対照群にランダム割付し、いじめの報告件数を集計した研究では、KiVaプログラムを実施した群の方がいじめの加害・被害が有意に少なかったという結果が出ています[11]。 また、フィンランドで行われた大規模なコホート研究では、KiVaプログラムを導入しなかった群ではいじめの被害・加害が導入した群に比べて約1.2倍多いという結果となっており、これはフィンランド全体で推計するといじめ 被害者は約12,500人、加害者は7,500人の減少にあたります[12]。

さらに、イタリア・オランダ・イギリスなどの他の国でもその効果は示されています。イタリアでは被害・加害報告がともに約50%減少し[13]、オランダ・イギリスでも被害の減少が報告されています[14][15]。また、いじめを減らす効果だけではなく学業成績・学校満足度・学業への意欲の向上などの副次的効果もあることが分かっています[16]。

まとめ

日本においては、傍観者にアプローチする対策はあまり行われておらず、道徳教育や啓発が主になっています。しかし、傍観者はいじめにおいて重要な役割を果たしており、介入する意義は十分に大きいと考えられます。日本においても、傍観者に焦点を当てた対策を行うことが望まれます。その対策の方法の一つとしてKiVaプログラムが挙げられます。KiVaプログラムは複数の研究でいじめを減らす効果が実証されており、かつ多数の国・地域で導入されています。また、私たちがある世田谷区議会議員の方にKiVaプログラムを提案した結果、世田谷区においてKiVaプログラムを参考にしたいじめ防止プログラムを導入することが決定しました。このように、傍観者に焦点を当てたプログラムを日本全体に普及させることが望まれます。

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出典

[1]文部科学省初等中等教育局児童生徒課「平成28 年度『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』(速報値)」について http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/10/__icsFiles/afieldfile/2017/10/26/1397646_001.pdf 最終閲覧2018年12月6日
[2] Kaltiala-Heino, R., Rimpelä, M., Rantanen, P., & Rimpelä, A. (2000). Bullying at school—an indicator of adolescents at risk for mental disorders. Journal of adolescence, 23(6), 661-674.
[3]いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1337278.htm 最終閲覧2019年1月26日
[4]Hong, J. S., & Espelage, D. L. (2012). A review of research on bullying and peer victimization in school: An ecological system analysis. Aggression and violent behavior, 17(4), 311-322.
[5]Salmivalli, C., Voeten, M., & Poskiparta, E. (2011). Bystanders matter: Associations between reinforcing, defending, and the frequency of bullying behavior in classrooms. Journal of Clinical Child & Adolescent Psychology, 40(5), 668-676.
[6]大西彩子 , & 吉田俊和. (2010). いじめの個人内生起メカニズム―集団規範の影響に着目して―.
[7]Lynn Hawkins, D., Pepler, D. J., & Craig, W. M. (2001). Naturalistic observations of peer interventions in bullying. Social development, 10(4), 512-527.
[8]Flaspohler, P. D., Elfstrom, J. L., Vanderzee, K. L., Sink, H. E., & Birchmeier, Z. (2009). Stand by me: The effects of peer and teacher support in mitigating the impact of bullying on quality of life. Psychology in the Schools, 46(7), 636-649.
[9]KiVaプログラム公式HP http://www.kivaprogram.net/around-the-world 最終閲覧2018年12月6日
[10]KiVaプログラム公式HP http://www.kivaprogram.net/program 最終閲覧2018年12月6日
[11]Kärnä, A., Voeten, M., Little, T. D., Alanen, E., Poskiparta, E., & Salmivalli, C. (2013). Effectiveness of the KiVa Antibullying Program: Grades 1–3 and 7–9. Journal of Educational Psychology, 105(2), 535.
[12]Kärnä, A., Voeten, M., Little, T. D., Poskiparta, E., Alanen, E., & Salmivalli, C. (2011). Going to scale: A nonrandomized nationwide trial of the KiVa antibullying program for grades 1–9. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 79(6), 796.
[13] Nocentini, A., & Menesini, E. (2016). KiVa Anti-Bullying program in Italy: evidence of effectiveness in a randomized control trial. Prevention science, 17(8), 1012-1023
[14]KiVaプログラム公式HP http://www.kivaprogram.net/is-kiva-effective 最終閲覧2018年12月6日
[15]Hutchings, J., & Clarkson, S. (2015). Introducing and piloting the KiVa bullying prevention programme in the UK. Educ Child Psychol, 32(1), 49-61.
[16]Salmivalli, C., Garandeau, C. F., & Veenstra, R. (2012). KiVa anti-bullying program: Implications for school adjustment.
[17]せたがやの教育 http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/107/162/1816/d00160953_d/fil/103_setagaya_p07.pdf
最終閲覧2019年1月26日

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