現在のインフルエンザ対策は不十分。社会全体の罹患率を下げる、子どもへのワクチン集団接種再導入を。

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サマリー

  • インフルエンザは毎年日本で1000万人程の感染者を出し、社会に与える影響は甚大である。
  • インフルエンザ対策として効果的なワクチンは、子どもに打つことで社会に集団免疫がつき、高齢者のインフルエンザ罹患率も下げることができる。
  • 2〜16歳の子どもを対象に、学校で集団ワクチン接種を実施することを提案する。

詳細

現在、日本では毎年約1000万人の季節性インフルエンザ感染者がいるとされています[1]。さらに、人口約3億人のアメリカにおいては2003年ではインフルエンザ流行によって、2470万人の感染者が発生し、損失生存年数610,660年、310万日の入院期間、直接的な医療費104億ドルの社会的コストが生じることが報告されている[2]など、インフルエンザは社会に大きな損失を与えます。

有効なインフルエンザ対策の一つとしてワクチン接種があり、WHO、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)や厚労省も接種を推薦しています[3][4][5]。しかし、日本では厚労省がワクチンの定期接種の適用範囲を65歳以上、及び高リスクの者に限っており、さらに定期接種を推奨する層に対しても努力義務を設けていないため、インフルエンザ対策は十分なものと言えず、2010/11年シーズンでは、子ども(13歳未満)の接種率:59.2%、一般成人(13~65未満)の接種率:28.6%、定期接種対象者の接種率:58.5%と推定されました[6]。よって、インフルエンザには更なる対策が必要であると考えられます。

社会全体の罹患率を下げるためのワクチン接種の方法として、子どもに対して集団的に接種を推奨するという方法が挙げられます。その理由の1つとして、高齢者(65歳以上)へのワクチン有効性が低い一方で、子どもへのワクチン有効性が高いことが挙げられます。ランダム化比較実験(n=5)、コホート研究(n=49)、症例対照研究(n=10)をまとめたシステマティックレビューでは、高齢者の家庭ではインフルエンザ様の病気に対するワクチンの有効性は23%であるとし[7]、別の研究では65歳未満の人への有効性が70%(95% CI 57%~71%)のところ、65歳以上の人への有効性は46%(95% CI -17%~75%)である[8]としています。一方で、ワクチンは子どもに対しては有効性が高いことも報告されています[9]。子どもがインフルエンザ拡大の重要なアクターである[10]ことからも、社会全体のインフル罹患率をあげるにも、子どもへのワクチン接種が重要であることが分かります。更に、インフルエンザワクチンは接種した人だけでなく、ワクチンを接種していない人の予防率をあげることがシミュレーション[11]、及び多くの実証実験[12][13][14][15]により示されており、これをワクチンの集団免疫効果と言います。シミュレーションで示された集団予防のメカニズムは以下の図の通り(図1)であり、同研究では2~16歳の子どもの生ワクチン予防接種率が60%の時、接種者数の4倍の人が間接的に免疫を獲得しました。また、実証実験[12]では、モスクワにおける幼稚園児(n=3658;全体の57.4%)と学校に通う7〜17歳の子ども(n=24650;全体の72%)にワクチン接種を行うと、ターゲット群ではコントロール群に比べ、高齢者(60歳以上)のインフルエンザ様疾患が3.4倍予防され、インフルエンザの合併症の罹患は1.7倍から2.6倍予防されました。

上記の通り、ワクチンの高齢者への有効性は低い一方、子どもへの有効性は高いため、子どもの接種率をあげることで社会全体の免疫力を高めるべきです。その具体的な方法として学校でのインフルエンザ接種を提案します。実際、日本でも1962年〜94年まで、小学生が学校でワクチンの接種を行なっていました。しかし、この制度はワクチンの負の面ばかりが強調され、現在では正当性が否定されている「前橋レポート」(これは前橋医師会がワクチン接種によってもインフルエンザの流行状況は変化していないと主張したレポート)などが報告されたことで、インフルエンザワクチンに対する国民の不安が増す中で、廃止されました[16]。しかし、ワクチンの副作用に関しては、厚労省が2017年に発表している通り、医療機関からの副作用の報告は0.0005%、製造販売業者からの報告は0.00015%であり、更にそれらもワクチンとの直接的な因果関係は明らかにされておらず、インフルワクチンに明らかな副作用は認められません[17]。また、この集団接種については肯定的に評価する論文もあり、49~94年までのインフルエンザ、肺炎による超過死亡率の日米比較をしたところ、日本の児童生徒のためのワクチン接種プログラムの開始に伴い、超過死亡率は米国の3倍から4倍の値から米国と同様の値に低下し、日本人の子どもの予防接種は、420人ごとに約1人の死亡を予防しました。小学生の予防接種が中止されると、日本の超過死亡率が増加したことが報告されています[18]。

近年ではイギリス、アメリカをはじめとしてこの様な学校ベースでの介入プログラムが注目を集めており、様々な介入実験が行われています。ここで、ワクチン接種の費用対効果を調べたイギリスのモデリングでは2~16歳の子どもにプログラムを適応することが最も効果的であるとし、総額費用(プログラム費用+治療費)は高齢者(65歳以上)と高リスク群のみにワクチン接種した場合に比べ、5284万ポンドの追加で、入院数は6145人、死亡数は799人減るとしています[19][20]。

仮に日本で2~16歳の子どもにワクチン接種を義務付けるとするとどのようなインパクトがあるのでしょうか。先に示した通り、2~16歳の子どものワクチン接種率は59.2%と推定されていますが、仮に介入プログラムを実施し、迅速に2~16歳の全員にワクチンを接種することで、高齢者(65歳以上)のワクチン接種の有無に関わらず高齢者のインフルエンザ感染数を最も減らします。これは、イギリスの児童へのワクチン接種の適応の費用対効果をシミュレーションで調べた論文[21]の中で示唆されており(図2)、イギリスはプログラム適応以前は日本と同じように、高齢者およびハイリスクの者にのみ定期接種が推奨されていたため、この研究は日本が同じように児童に対してプログラムを適応した際のモデルに適用出来ると考えられます。

 

まとめ

インフルエンザ 罹患率を下げる手段として子どものワクチン接種率をあげることが有効であり、そのための介入群として学校が挙げられ、近年海外ではこのように学校ベースでワクチン接種をすることが注目されています。日本ではかつてこの制度が導入されていたにも関わらず、エビデンスに基づいていない反対運動によって廃止されてしまったため、再度導入することを推奨します。

本件に関するお問い合わせについて

瀧本ゼミ政策分析パートでは、この問題についてリサーチを重ねております。
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出典

[1] 季節性インフルエンザ罹患者数の推計方法等の変更についてhttps://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikag
[2] Molinari, Noelle-Angelique M., et al. “The annual impact of seasonal influenza in the US: measuring disease burden and costs.” Vaccine 25.27 (2007): 5086-50
[3] WHOホームページhttp://www.who.int/influenza/vaccines/en/(2018/8/23最終閲覧)
[4] CDCホームページhttps://www.cdc.gov/flu/protect/keyfacts.htm(2018/8/23最終閲覧)
[5] 厚生労働省インフルエンザQ&A
<https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html>(2018/8/23最終閲覧)
[6] 延原弘章ほか「我が国に分けるインフルエンザワクチン接種率の推計」2014年7月15日『日本公衛誌』第7号
[7] Jefferson, Tom, et al. “Efficacy and effectiveness of influenza vaccines in elderly people: a systematic review.” The Lancet 366.9492 (2005)
[8] Fleming DM, Andrews NJ, Ellis JS, Bermingham A, Sebastianpillai P, Elliot AJ, et al. Estimating influenza vaccine effectiveness using routinely collected laboratory data. J Epidemiol Community Health. 2010;64:1062–7
[9] Lukšić, Ivana, et al. “Effectiveness of seasonal influenza vaccines in children–a systematic review and metaanalysis.” Croatian medical journal 54.2 (2013): 135-145.
[10] Neuzil, Kathleen M., Cynthia Hohlbein, and Yuwei Zhu. “Illness among schoolchildren during influenza season: effect on school absenteeism, parental absenteeism from work, and secondary illness in families.” Archives of pediatrics & adolescent medicine 156.10 (2002): 986-991.
[11] Eichner, M., Schwehm, M., Eichner, L., & Gerlier, L. (2017). Direct and indirect effects of influenza vaccination. BMC Infectious Diseases, 17, 308.
[12] GHENDON YZ, KAIRA AN, ELSHINA GA. The effect of mass influenza immunization in children on the morbidity of the unvaccinated elderly. Epidemiology and Infection. 2006;134(1):71-78.
[13] Piedra PA, Gaglani MJ, Kozinetz CA, et al. Trivalent live attenuated intranasal influenza vaccine administered during the 2003-2004 influenza type A (H3N2) outbreak provided immediate, direct, and indirect protection in children. Pediatrics 2007;120:e553-64
[14] Piedra PA, Gaglani MJ, Kozinetz CA, et al. Herd immunity in adults against influenza-related illnesses with use of the trivalent-live attenuated influenza vaccine (CAIV-T) in children. Vaccine 2005;23:1540-8
[15] Glezen, W. P., Gaglani, M. J., Kozinetz, C. A., & Piedra, P. A. (2010). Direct and Indirect Effectiveness of Influenza Vaccination Delivered to Children at School Preceding an Epidemic Caused by 3 New Influenza Virus Variants. The Journal of Infectious Diseases, 202(11), 1626–1633.
[16] 福岡市医師会医療情報室 2014年11月28日発行「日本はなぜ”ワクチン後進国”になったのか」http://www.city.fukuoka.med.or.jp/jouhousitsu/report199.html (2018/8/3最終閲覧)
[17] 厚生労働省”平成28年シーズンのインフルエンザワクチン 接種後の副反応疑い報告について”  医薬品・医療製品等安全性情報No.349 p.12
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000189772.pdf(最終閲覧日2018/6/12)
[18] Reichert TA, Sugaya N, Fedson DS, Glezen WP, Simonsen L, Tashiro M. “The Japanese experience with vaccinating schoolchildren against influenza.” (2001) N Engl J Med
[19] Baguelin, M., Camacho, A., Flasche, S., & Edmunds, W. J. (2015). Extending the elderly-and risk-group programme of vaccination against seasonal influenza in England and Wales: a cost-effectiveness study. BMC medicine, 13(1), 236.
[20] 1995年から2009年までのイギリスでのインフルエンザA H3N2、H1N1、インフルエンザBの感染変遷のモデルの下で[22]、各年齢層にワクチンを打った場合に発生する感染数を推定した。本レポートの費用対効果の推定では、[19]の本文のtable4のelderly and risk group の数値と、2-16years の群の数値を比較して差を算出した。
[21]Hodgson, David, et al. “Effect of mass paediatric influenza vaccination on existing influenza vaccination programmes in England and Wales: a modelling and cost-effectiveness analysis.” The lancet Public health 2.2 (2017): e74-e81.
[22] Baguelin, M., Flasche, S., Camacho, A., Demiris, N., Miller, E., & Edmunds, W. J. (2013). Assessing optimal target populations for influenza vaccination programmes: an evidence synthesis and modelling study. PLoS medicine, 10(10), e1001527.

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