児童への聴取は冤罪を生む危険大。VRを活用した新たな手法で正確な聞き取りへ。

サマリー

子どもへの虐待事件や性的暴行に関する事件等で被害児から証言を得る必要がある場面は少なくないが、そのような場合に被害児から正確な証言を得ることは難しく、立証ができず無罪判決が出ることや誤った証言を基に冤罪が発生する可能性がある。
そうした問題の解決策の一つが司法面接法であるが、VR技術を活用して司法面接を行う方法の有効性が示されつつある。
しかし、VRを活用した聴取についての研究は少なく効果実証が不十分であるため、今後エビデンスを蓄積すべきである。

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本文

子どもが事件・事故に巻き込まれたとき、子どもから詳しく話を聞く必要があります。特に虐待や性的被害のような事案の場合、子どもの証言が立証の柱となることも少なくありません。しかし、子どもが過去の出来事を思い出して話すということには様々な困難があり、子どもから正確な証言を得ることができず問題が生じた事例は多数あります。そのような事例として「甲山事件」が挙げられます。1974年、兵庫県西宮市の知的障がい者施設・甲山学園内の浄化槽で園児 2人が溺死した事案で、 園児から「女性が園児を連れ出すのを見た」という証言が得られたことなどを理由に、保育士の女性が園児2人の殺人容疑で逮捕されましたが、後に園児の死は事故であったことが発覚したというものです。 保育士の女性は事件発生から25年経過してようやく無罪が確定しました[1]。また、六歳の少女が、誰かにわいせつな行為をさせられたある事件では、少女は一貫して被告人にわいせつ行為をさせられたと証言しており、判示は少女の証言能力は認めたものの、少女の証言と客観的事実には不一致部分があり、両親などの早合点に基づく暗示があったのではないかと考え、少女の証言に対し十分な信頼を置きがたいと判断しました。結論として、被告人がわいせつ行為をさせたと断定できる証拠はなく、「疑わしきは被告人の利益に」の原理に従い、無罪の判決が下されました[2]。
このように、子どもから正確な証言を得ることができない場合、無実の人が逮捕・起訴され多大な損害を受けたり、かなり疑わしい事案において無罪判決が下されたりするなど、極めて深刻な事態に発展することがあります。
同様の事例は海外にもあり、子どもから正確な情報を聞き出すことの重要性が認識されてきました[3]。そこで開発されたのが司法面接法です。司法面接法とは、法的な判断のために使用することのできる精度の高い情報を、被面接者の心理的負担に配慮しつつ得るための面接法です。イギリスの様相アプローチ、カナダのステップワイズ面接、ドイツの構造面接、アメリカのNICHDプロトコルなど、司法面接法の種類は様々ですが、正確な情報をより多く引き出すこと、子どもへの精神的負担を減らすことを目的とする点で共通しています[3]。種類によって若干異なりますが、多くの面接法は次のように進行します。

①ラポール(安心して話ができる信頼関係)の形成・面接のルールの説明
リラックスして話ができる関係性を築くとともに、面接のルールを説明する。
例「質問の答えを知らなかったら『知らない』と言ってください」
②自由報告
自発的な報告を求める。
例「覚えていることをすべて話してください」
③質問
オープン質問・WH質問(いつ/どこで/誰が/何を/どのように)・クローズド質問・確認質問などを用いて②で得られなかった情報を聞き出す。
例「それから?」「いつのことでしたか?」「~をしましたか?」「~をされたのですよね?」
④クロージング
子どもからの質問や希望を受け、感謝して終了する。
例「たくさん話してくれてどうもありがとう」

自由報告を求めることによって最も多くの情報が得られ、得られた情報は正確性が高いということがわかっています[4]。司法面接法には様々な種類がありますが、その中でもアメリカ国立小児保健・人間発達研究所のNICHDプロトコルが日本で普及させるのに最適です。なぜなら、NICHDプロトコルは子どもの発話量の増加・面接者の質問形式を変える(より誘導的でない質問を増やす)効果がメタアナリシスによって示されている[5]上、既に日本に研修機関が存在しており[6]、普及が比較的容易だと思われるからです。

 

 

現在日本に研修機関は存在しており、以下のグラフの通り司法面接の研修受講者数は増加しています。「福祉」に含まれる受講者は累計約2000人、「司法」に含まれる受講者は累計約800人となっています。しかし、児童福祉司は全国で2934人(平成27年4月1日時点)[7]、警察官・検察官はそれぞれ約25万人[8]、約3000人[9]であることを考慮すると、まだ十分に普及しているとはいいがたい状況です[10]。

 

司法面接法の研究・普及が進む一方で、対面で聴取を行うこと自体によって生じる問題(記憶を想起するなどの複雑な作業を行っているとき、他者の存在がそれを妨げる「社会的抑制効果」や、社会的に望ましい答えを要求する圧力である「要求特性」等)についても指摘されてきました[11]。これまではヒューマノイドロボットでそれらを取り除く方向性が検討されてきました[12]が、より安価で手軽な代替手段として現在注目されているのがVR技術を活用した聴取です。すなわち、面接者と子どもは直接会うのではなく、インターネットを介して仮想空間内で聴取を行います。

VRによって社会的抑制効果や要求特性などを軽減することが可能ならば、子どもからより正確な証言を得ることができるのではないかという仮説を背景に研究がなされました。
また、面接者の特性によって子どもの発話量が変化する(女性のインタビュアーの方が、男性より多くの証言を女の子から引き出すなど)ことが分かっています[13]が、そういったインタビュアーの特性による影響を取り除く効果も期待されています[12]。また、司法面接法がまだ十分に普及していない状況において、VRを用いてリモートで聴取を行うことが可能ならば、司法面接法自体、より普及させやすくなるとも考えられます。子ども30人を対象に、VRと対面で聴取を行ってそれらを比較した研究では、VRの場合に正確性の向上・(自閉症児に対してのみ)発話量の増加といった効果が見られました[12]。一方、同研究において、対面と比較してVRの方がより子どもが誘導されやすくなるという結果が出ており[12]、まだ解決すべき問題点を含んでいるといえます。ちなみに、大人を対象としてVRと対面で聴取を行って比較した研究では、正確性の向上の効果が見られ、聴取後のアンケートでもVRを用いた聴取について被験者は、「面接に集中しやすかった」「答えが分からないときに『分からない』と言いやすかった」と評価しました[11]。このように、VRを用いた聴取は主観的にも肯定的な評価を得られているといえます。しかし、VRを用いた聴取に関する研究はまだまだ少なく、その有効性に関するエビデンスはまだまだ不十分であるため、今後エビデンスを蓄積するべきです。

 

まとめ

VRを用いた司法面接法は、対面での面接と比較して、社会的抑制効果や要求特性などを軽減させ正確な証言を導くことができる可能性を秘めています。また遠隔で行えるため、司法面接法を広く普及させることにも繋がります。これらのことから、VRを用いた司法面接法を導入することは冤罪防止や子どもに関わる事件・事故の解決などの観点において意義が大きいといえます。もっとも、現段階ではVRを用いた聴取についての研究はかなり少なく、エビデンスが十分とはいいがたい状況です。そのために、日本において先行研究よりも大規模な研究を行い、VRを用いた司法面接法の有効性に関するエビデンスを蓄積するべきです。

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出典

[1]上野 勝, 山田 悦子『甲山事件 えん罪のつくられ方』(2008)現代人文社
[2]『判例時報』1356号,156-162頁「六歳児の加害者識別に関する証言の信憑性に疑問があるとされた事例」
[3]仲真紀子『子どもへの司法面接 — 考え方・進め方とトレーニング』(2016)有斐閣
[4]Lamb, M. E., Orbach, Y., Hershkowitz, I., Horowitz, D., & Abbott, C. B. (2007). Does the type of prompt affect the accuracy of information provided by alleged victims of abuse in forensic interviews?. Applied Cognitive Psychology: The Official Journal of the Society for Applied Research in Memory and Cognition, 21(9), 1117-1130.
[5]Benia, L. R., Hauck-Filho, N., Dillenburg, M., & Stein, L. M. (2015). The NICHD investigative interview protocol: A meta-analytic review. Journal of child sexual abuse, 24(3), 259-279.
[6]司法面接支援室 https://forensic-interviews.jp/doc/?r=5 最終閲覧2018年8月31日
[7]厚生労働省「児童虐待防止対策について」https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/11.pdf#search=’%E5%85%90%E7%AB%A5%E7%A6%8F%E7%A5%89%E5%8F%B8+%E4%BA%BA%E6%95%B0’ 最終閲覧2018年8月31日
[8]都道府県警察官の定員 http://www2.pref.iwate.jp/~hp0802/oshirase/keimu/kenkeiyouran/108zenkokuteiin.pdf 最終閲覧2018年9月1日
[9]検察庁ホームページhttp://www.kensatsu.go.jp/soshiki_kikou/shokuin.htm 最終閲覧2018年9月1日
[10]「戦略的創造研究推進事業 (社会技術研究開発) 平成27年度研究開発実施報告書」http://ristex.jst.go.jp/examin/active/pdf/JST_1115150_15666857_2015_naka_YR.pdf 最終閲覧2018年8月31日
[11]Dando, C. J., & Taylor, D. (2018). Eyewitness memory in face-to-face and immersive avatar-to-avatar contexts. Frontiers in psychology, 9, 507.
[12]Hsu, C. W., & Teoh, Y. S. (2017). Investigating event memory in children with autism spectrum disorder: effects of a computer-mediated interview. Journal of autism and developmental disorders, 47(2), 359-372.
[13]Lamb, M. E., & Garretson, M. E. (2003). The effects of interviewer gender and child gender on the informativeness of alleged child sexual abuse victims in forensic interviews. Law and Human Behavior, 27(2), 157-171

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