海外で導入進む砂糖税、実施による医療費削減インパクトは数百億円規模

サマリー

    • 糖尿病は成人の5人に1人が罹患しているともいわれるが、甘味飲料の摂取はそのリスクを高めることがわかっている。
    • 甘味飲料に課税する砂糖税を導入すると、甘味飲料の価格上昇によりその消費量削減が見込まれる。
    • この砂糖税導入により糖尿病患者が減少し、日本でも数百億円規模の糖尿病医療費を削減できる可能性がある。

詳細

日本における糖尿病は深刻な問題です。一時に比べ患者数の増加傾向はおさまっているとはいえ、医療費は推計年間1兆2000億円にもおよび、また国民の2割強が「糖尿病が強く疑われる者」あるいは「糖尿病の可能性を否定できない者」に該当するとされています[1][2]。

糖尿病とは高血糖が慢性的に続く病気で、原因に応じて1型糖尿病と2型糖尿病に分けられます。1型糖尿病は、自己免疫疾患などが原因で血糖値の上昇を抑えるインスリンを分泌する細胞が破壊されることで発症し、糖尿病全体の10%ほどを占めます。残りの90%を占める2型糖尿病に関しては、生活習慣の乱れなどによりインスリンが不足したり、分泌作用が機能しにくくなることで発症します。特に日本人はインスリンの分泌能が元来から低いため、2型糖尿病をより罹患しやすいとされています[3]。
2型糖尿病対策には、食事や運動などの生活習慣の改善が求められるところですが、摂取を減らすべき品目の一つとしてあげられるのが甘味飲料です。海外のメタ分析によると、1日に500ml(標準的なペットボトル1本分)の甘味飲料を摂取する人は、摂取しない人に比べ糖尿病リスクが約30%増えることがわかっています[4]。甘味飲料は糖尿病以外にも肥満[5]や様々な疾患のリスクにもなっており、海外では肥満対策として摂取削減が国レベルで進められているところがほとんどです。そうした中、昨今注目されている施策が砂糖税です。

砂糖税とは、甘味飲料に課税される間接税です。酒税やタバコ税と同じように、課税対象品目の消費を抑えるために設計されます。税の施行により、対象品目の値段が上がることなどによって、その消費が減少しています。2017年1月に導入したアメリカ・ペンシルベニア州のフィラデルフィアでは、近隣の諸都市と比較して炭酸飲料の消費が40%減りました[6]。カリフォルニア州バークレーでは2015年に導入されましたが、近隣都市では4%増だった課税品目の消費は21%減少しています[7]。また、2014年導入のメキシコでも、導入前のトレンドと比較して6%減少し、逆に非課税品目(ボトルウォーターなど)は4%増となりました[8][9]。企業側は対策として、低糖商品のラインナップを拡充するなど、より害の少ない形で商品を販売したりする動きも見られます[10][11]。一方、この税の導入によって、課税対象飲料消費が減少するため雇用や店舗売上に影響が出ることが懸念されるところですが、前者はメキシコの研究[12]で、後者はバークレーの研究[13]で、影響はほぼなかったと報告されています。これは、健康への害が少ない非課税対象飲料が代わりに購入されるためであると考えられています。

砂糖税の導入地域は最近になって急速な広まりを見せています。2000年に入って南太平洋地域の島国で導入が進みましたが、2010年からデンマーク・フランスなどヨーロッパの先進国などでも導入の動きが見られるようになりました。2015年以降アメリカ国内やフィリピン・タイなどアジアの新興国でも導入が加速し、今年4月にはイギリスでも施行されました[14]。また、ブラジルやカナダなどでも導入が予定されているほか、これまで税を導入した地域においても、さらに税率を引き上げるかどうかが議論されています[15]。WHOも2016年から20%以上の砂糖税の導入を促しています[16]。
上記の国々では、それぞれ地域の実情にあった税体系が設計されています。重要なポイントは、以下の通りです[14]。

課税対象品目

課税対象品目については、いくつかのオプションが存在します。砂糖が入った飲料へはほぼ全ての地域で課税されますが、果汁50%のフルーツジュースに課税するかどうか、あるいは人工甘味料を使用したダイエット飲料に課税対象を広げるかは各地域により異なります。

課税の方法

大きく分けて3つの方法があります。甘味飲料の内容量に応じて課税する従量方式、甘味飲料の価格を基準にして税率が定められる従価方式、そして砂糖の含有量に応じて課税金額が変わる方式です。

税負担の大きさ

日本において馴染みの深い従価方式(価格を基準として税率を決める方式;消費税など)では、10%から20%の税率としている国が多くなっていますが、高税率になればなるほど効果は高まるとされています[17]。逆に5%程度の低税率では、住民の健康に対して効果がないとしている研究もあります[18]。

日本に導入した際の糖尿病医療費を削減するインパクトとしては、仮に20%程度の高税率での施行の場合は、税収増が最終的に年間800億円[20]、新たに糖尿病に登録される患者数が3~5%程度削減され、その医療費も最終的には300億円から600億円削減される可能性があります[20]。各国で採られているプランは様々であることから、日本での実情に合わせた税制をデザインすることで、効果はさらに高まる可能性もあります。

糖尿病のリスクを高める甘味飲料に課税をすることで、実際にその店頭価格は上昇し、消費者の購買量は減少します。これにより糖尿病のリスクを減少させることができれば、税収を確保しつつ医療負担も抑えることが可能です。医療費の膨張が進む日本においても、経済的に大きなメリットをもたらすものとして、砂糖税の導入が検討対象に上るべきではないでしょうか。

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出典

[1]一般社団法人 日本生活習慣病予防協会,「平成26年度 国民医療費の概況」,2016年10月13日, http://www.seikatsusyukanbyo.com/statistics/2016/009222.php 最終閲覧2018年8月28日
[2]また、糖尿病患者の総数に関して、相当数の暗数が存在する可能性も指摘されている (有病者数は3000万人強とも)
Goto, Atsushi, et al. “Incidence of type 2 diabetes in Japan: a systematic review and meta-analysis.” PloS one 8.9 (2013): e74699.
International Diabetes Federation, “IDA DIABETES ATLAS English edition 2017”, 2017, http://diabetesatlas.org/resources/2017-atlas.html 最終閲覧2018年8月28日
[3]Fukushima, Mitsuo, Haruhiko Suzuki, and Yutaka Seino. “Insulin secretion capacity in the development from normal glucose tolerance to type 2 diabetes.” Diabetes research and clinical practice 66 (2004): S37-S43.
[4] Schwingshackl, L., Hoffmann, G., Lampouprospectivesi, A.-M., Knüppel, S., Iqbal, K., Schwedhelm, C., … Boeing, H. (2017). Food groups and risk of type 2 diabetes mellitus: a systematic review and meta-analysis of studies. European Journal of Epidemiology, 32(5), 363–375. https://doi.org/10.1007/s10654-017-0246-y
[5]Anari, R., Amani, R., & Veissi, M. (2017). Sugar-sweetened beverages consumption is associated with abdominal obesity risk in diabetic patients. Diabetes & Metabolic Syndrome: Clinical Research & Reviews, 11, S675–S678. https://doi.org/10.1016/j.dsx.2017.04.024
[6]Zhong, Y., Auchincloss, A. H., Lee, B. K., & Kanter, G. P. (2018). The Short-Term Impacts of the Philadelphia Beverage Tax on Beverage Consumption. American Journal of Preventive Medicine. https://doi.org/10.1016/j.amepre.2018.02.017
[7]Falbe, J., Thompson, H. R., Becker, C. M., Rojas, N., McCulloch, C. E., & Madsen, K. A. (2016). Impact of the Berkeley excise tax on sugar-sweetened beverage consumption. American Journal of Public Health, 106(10), 1865–1871. https://doi.org/10.2105/AJPH.2016.303362
[8]Colchero, M. A., Popkin, B. M., Rivera, J. A., & Ng, S. W. (2016). Beverage purchases from stores in Mexico under the excise tax on sugar sweetened beverages: Observational study. BMJ (Online), 352. https://doi.org/10.1136/bmj.h6704
[9]Colchero, M. A., Popkin, B. M., Rivera, J. A., & Ng, S. W. (2016). Beverage purchases from stores in Mexico under the excise tax on sugar sweetened beverages: Observational study. BMJ (Online), 352. https://doi.org/10.1136/bmj.h6704
[10]BBC MEWS, “Sugar tax is already producing results”, 2018年3月12日, https://www.bbc.co.uk/news/health-43372295 最終閲覧2018年8月28日
[11]Food navigator-asia.com, “NZ Health Minister responds to appointment of ‘number one’ sugar tax advocate”, 2018年8月8日,https://www.foodnavigator-asia.com/Article/2018/08/08/NZ-Health-Minister-responds-to-appointment-of-number-one-sugar-tax-advocate# 最終閲覧2018年8月28日
[12]Guerrero-López, C. M., Molina, M., & Colchero, M. A. (2017). Employment changes associated with the introduction of taxes on sugar-sweetened beverages and nonessential energy-dense food in Mexico. Preventive Medicine, 105, S43–S49. https://doi.org/10.1016/j.ypmed.2017.09.001
[13]Silver, L. D., Ng, S. W., Ryan-Ibarra, S., Taillie, L. S., Induni, M., Miles, D. R., … Popkin, B. M. (2017). Changes in prices, sales, consumer spending, and beverage consumption one year after a tax on sugar-sweetened beverages in Berkeley, California, US: A before-and-after study. PLoS Medicine, 14(4). https://doi.org/10.1371/journal.pmed.1002283
[14]World Cancer Research Fund International, “Building Momentum: lessons on implementing evidence-informed nutrition policy”, https://www.wcrf.org/int/policy/our-publications/building-momentum-lessons-implementing-evidence-informed-nutrition, 最終閲覧2018年8月28日
[15]Beverage daily.com, “Sugar taxes: The global picture in 2017”, 2017年12月20日, https://www.beveragedaily.com/Article/2017/12/20/Sugar-taxes-The-global-picture-in-2017 最終閲覧2018年8月28日
[16]World Health Organization, “WHO urges global action to curtail consumption and health impacts of sugary drinks”, 2016年10月11日, http://www.who.int/news-room/detail/11-10-2016-who-urges-global-action-to-curtail-consumption-and-health-impacts-of-sugary-drinks 最終閲覧2018年8月28日
[17]Wright, A., Smith, K. E., & Hellowell, M. (2017). Policy lessons from health taxes: A systematic review of empirical studies. BMC Public Health. BioMed Central. https://doi.org/10.1186/s12889-017-4497-z
[18]Colantuoni, F., & Rojas, C. (2015). The Impact of Soda Sales Taxes on Consumption: Evidence From Scanner Data. Contemporary Economic Policy, 33(4), 714–734. https://doi.org/10.1111/coep.12101
[19]Cabrera Escobar, M. A., Veerman, J. L., Tollman, S. M., Bertram, M. Y., & Hofman, K. J. (2013). Evidence that a tax on sugar sweetened beverages reduces the obesity rate: A meta-analysis. BMC Public Health, 13(1), 1. https://doi.org/10.1186/1471-2458-13-1072
[20]税収見込みは、[{(課税対象品目消費量)-(課税対象品目消費量*税率*課税対象品目価格弾力性)}*(税率*課税対象品目価格弾力性)]*価格 をモデルとして算出した。
各項目は、[1],
[4],[17],[18],全国清涼飲料連合会「全国清涼飲料連合会資料」,厚生労働省社会・援護局「社会経済的要因と健康・食生活」を参照した。

 

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