五月祭講演会『個人の恣意性から、エビデンスと科学へ』レポート

5月20日、東京大学の五月祭で瀧本ゼミ主催イベント「瀧本ゼミ五月祭講演会『個人の恣意性から、エビデンスと科学へ』」を開催致しました。
つくば市副市長である毛塚幹人氏、京都大学客員准教授瀧本哲史氏をお招きし、学生が立案した政策の公開ロビイングと銘打った本企画では、立ち見が出るなど大勢の皆様のご参加を賜りましたご参加下さいました皆様、誠にありがとうございました

五月祭でゼミ生が提案する様子

当日は4つの政策案についての討議を行い、毛塚副市長からは政策案の導入に向け力強いお言葉を頂きました。そこで本稿では当日の提案内容、議論、質疑応答のダイジェスト版を御紹介致します。(以下敬称略)

「つくば市、世界のあしたが見えるまちへの挑戦」

戦後最年少となる26歳の副市長毛塚氏は、2017年の就任以来、様々な改革を行ってきました。当日は毛塚副市長より、民間企業との共同研究としてRPA(Robotic Process Automation)を導入し約80%の業務効率改善に成功した実績、またつくば市のビジョン等についてお話を頂きました。

瀧本ゼミからの提案/毛塚副市長・瀧本氏との議論

当日は以下の4つのテーマについて毛塚副市長に提案、議論を行いました。

あなたの行動が命を救う!
突然、心停止した人を救うには!?

提案概要

日本で1年間に7.5万件発生する心停止。そんな心停止ですが、AEDの使用により救命率が5倍以上に上がることが実証されています。しかし、現在のAED使用率は僅か5%程に留まっています。そこで私達は、第一に条例やガイドラインを通じたAED配備の増加、第二にAEDを備えた施設が閉まっている夜間や早朝のための交番・パトカーやコンビニへの配置、第三に簡易講習の普及を毛塚副市長にご提案しました。

毛塚副市長・瀧本氏のコメント

毛塚「このような施策を行う上では、主体を考えるのが重要かと思います。例えばつくば市の予算規模を考えると財政負担が気になりますので、例えば県が財政面を担い、つくば市が施策を行うというのも考えられます。」

毛塚「つくば市としましては、条例化については前向きに検討したいと思います。また講習についても、消防団に働きかけながら前向きに検討します。他方でコンビニ等への設置については、現状では民間が所有しているAEDの把握が出来ていない状態ですので、まずはそこから始めていきます。」

瀧本「私達が以前に提案したAED条例の時も、ある自治体では担当部署が政策の重要性を認識する一方で、ルーチン業務が多いので政治家が優先順位をあげてくれないと実際には取り組みにくいという話を自治体の幹部から聞きました。昨年の河野太郎氏を招いた大学の予算についての講演会の時もそうでしたが、政治家が政治家ならではの価値を出せるシーンの一つとして、各部署への責任の割り振りや、政策課題の順位付けがあります。その点でぜひ副市長である毛塚氏に期待したいですね。」

様々なアレルギーを引き起こすとされるアトピー性皮膚炎!
1日数回〇〇をするだけで、予防できる!?

提案概要

新生児の全身に1日1回以上保湿剤を塗布することで、アトピー性皮膚炎及び他のアレルギー疾患の予防に繋がる可能性があるという研究が進んでいます*1*2。しかしこの施策は皮膚科・小児科・産婦人科の複合領域ということもあり、実地では進んでいません。そこで瀧本ゼミでは母子手帳の配布時にパンフレットを添えたり保護者に説明したりすることによって、保湿剤塗布の普及を目指すご提案をしました。

毛塚副市長・瀧本氏のコメント

毛塚「自治体では全ての保護者の方にアプローチするタイミングがあるため、この政策は非常に良いと思いました。気になったのは二点、一つは実証実験の被験者数が100と少ない点、二つ目は副作用についてです。」

ゼミ生「一点目につきましては、この分野の研究では被験者数を集めることが困難だということがあり、この数字でも研究として認められている水準にはなります。さらに、2019年春に1000人を超える規模の研究が出ますので、被験者数の問題に関してはそちらで解決出来るかと思います。二点目の副作用については、現在塗布による有害事象は報告されていません。また保湿剤ごとの有害事象については現在研究中とのことです。」

毛塚「有害事象に関しては、保湿剤を製造する企業との連携も良さそうですね。つくば市では保護者向けの情報を流すこともできますし、これは凄く良いデザインの施策だと思います。ですので、今後詳細を詰めていきましょう。」

瀧本「この前産婦人科の先生や看護師さんに聞いてみたら、このことは皆知っていたんですね。ですが出産直後というのは保護者もお医者さんも忙しいので、塗布は出来ていないようです。落ち着いて話を出来るタイミングで保護者に説明できるというのが、市町村がこの政策を進めることの意義だと思います。このように、実は地方公共団体が持っている政策ツールは結構あります。」

*1 Horimukai K et al. Application of moisturizer to neonates prevents development of atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol 2014:134:824-30.
*2 Eric L. Simpson et al. Emollient enhancement of the skin barrier from birth offers effective atopic dermatitis prevention. J Allergy Clin Immunol 2014:134:818-23.

「日本は世界で一番赤ちゃんが安全に生まれる国」は本当?
あなたの行動が赤ちゃんを救う!

提案概要

私達は児童虐待の予防政策を提案しました。具体的には、周産期医療機関と連携しながら、つくば市主導で親へのスクリーニングと出産後の家庭訪問を行うというものです。特にその際に、親が自己肯定感を得られるようにすることが重要であるという研究が進んでいるため*1、その点を考慮したプログラムを提案しました。なおこちらの方式による介入は、アメリカで幅広く実施されて虐待の発生を減少させている*2ほか、愛知県田原市でもすでに導入されています。*3

 

毛塚副市長・瀧本氏のコメント

毛塚「第一に現状の政策との整理が必要かと思いました。つくば市では、地域の中での子供の健やかな成育を目的に赤ちゃん訪問を行っておりまして、そことの整理が必要かと思います。第二にコスト面ですね。どのくらいの訪問頻度、時間をかけるのか、業務の増分について今後お示し頂きたいです。」

*1 Claudia E. van der Put, Mark Assink, Jeanne Gubbels, Noëlle F. Boekhout van Solinge. (2018). Identifying Eective Components of Child Maltreatment Interventions: A Meta‐analysis. Clinical Child and Family Psychology Review, 21, pp171–202.
*2 Kimberly DuMont, Susan Mitchell-Herzfeld, Rose Greene,et al. (2008). Healthy Families New York (HFNY) randomized trial: Effects on early child abuse and neglect, Child Abuse & Neglect ,32, pp295–315.
*3 あいち小児保険医療総合センターHP, 母子健康診査マニュアル平成23年度愛知県母子健康診 査マニュアル(第9版)第2章「母子健康診査の基礎」 URL: http://www.achmc.pref.aichi.jp/sector/hoken/information/screening_manual.html (最終アクセス:2018/4/30)

 

実は多くの人に関係がある!?
〇〇を早期発見することで、子供の才能をうまく育てるには?

提案概要

人口の約1%に当てはまる自閉症*1。実は、自閉症を持つ子供が早期養育を受けることで、彼らの成人期のQOLが上昇することが実証されています*2。そこで必要なのが1歳児半検診と3歳児検診なのですが、現在の検診で用いられる検診表にはカットオフポイント(陽性を疑う基準点)が定められていないため、定量的な評価指標としての曖昧さが残っています*3。そこで私達は客観性を担保したエビデンスベースのスクリーニングシート*4に着目し、それをつくば市の検診に導入すること、また自閉症に該当する子供を養育プログラム・施設に誘導するという政策案を提案しました。

 

毛塚副市長のコメント

毛塚「自閉症のスクリーニングで急激に対象者が増えると養育施設が足りなくなる可能性もあるため、スクリーニングシートを導入した自治体でのデータに基づきながら、対応について検討をしていきたいです。」

*1厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット 自閉症について URL:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-005.html(最終アクセス2018/5/28)

*2Y oko Kamio, Naoko Inada, Tomonori Koyama,(2012).A nationwide survey on quality of life and associated factors of adults with high-functioning autism spectrum disorders, Autism, 17(1) , pp15–26.
*3 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・思春期精神保健研究部 「自閉症スペクトラム障害の早期発見のポイント」 発達障害者支援に関する行政評価・監視 結果報告書(平成29年1月)総務省行政 評価局
*4M-CHAT・PARS-TRのことを指す。
Naoko Inada, Tomonori Koyama, Eiko Inokuchi, et.al.,(2011).Reliability and validity of the Japanese version of the Modified Checklist for autism in toddlers (M-CHAT), Research in Autism Spectrum Disorders, 5, pp330–336.
安達潤,行廣隆次,井上雅彦,.et.al., (2008).広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度(PARS)短縮 版の信頼性・妥当性についての検討,,精神医学,50(5), pp431-438

EBPM(Evidence-Based Policy Making)を実現するには

毛塚「日本で先進的な政策を導入する例は幾つかあるのですが、その成果に関する定量的な評価がなされていないのが非常に残念だと思いました。今回のようなエビデンスに基づく政策提案は、自治体としても非常にありがたいです。」

ゼミ生「自治体として、EBPMの導入に対してどのような課題が存在するのですか?」

毛塚「世の中で言われるEBPMというのは、政策評価に関する面が大きいと思うのです。ですが実験の中での受益者とそうでない人との問題や研究機関との連携といった点で、このような研究デザインを設計することは自治体としては非常に難しいというのが事実です。私のところでは、各プロジェクトに担当職員をつけることで連携や成果について把握できるようにしていて、また私自身も約1500の事業についての読み込みを行ったのですが、正直なところ大体の首長は自分の自治体の政策の全貌を知らないのではないかと思います。」

瀧本「実際、コストをかけて行っている現状の政策が正しいのかも結構疑問で、元々初期の瀧本ゼミでは政策の評価を行っていたのですが、全く効果が無い政策が何となく続いているというのが多かったんですよ。それならば思い付きベースでの政策を廃止して、効果のある政策を自分達で作ろうとなったのです。」

瀧本「EBPMを実現するには政治的なリーダーシップが必要だと思います。調べるコスト等も考えると何でも削るというのは筋が悪くて、何に使ったらいいかを見極めるという部分も政治家の重要な役割だと思っています。」

ゼミ生「来場者の中には官僚の方も多いと思うのですが、官僚として出来ることは何かありますか?」

瀧本「是非若手の方なんかは、官庁内でロビイングをして頂いて、役職についていらっしゃる方に提案などして頂けると良いと思います。」

参加者からの質問

講演会の最後には、参加者の皆様より沢山のご質問を頂きました。ここでは幾つか抜粋し御紹介致します。

質問者「証拠に基づく政策というのは、当たり前に行われてこなかったのでしょうか?」

毛塚「これまでの自治体運営では、思い付きによる政策も数多く行われていました。これからの自治体というのは人口減少も見越しながら、事業の見極め、思い付きでない政策デザインを設計する重要性が大きくなっていくと考えており、その点でEBPMには意義があると考えています。」

会場が満員になる中での当日の議論の様子

質問者「市役所をかき回しながら、どんどん政策を進めてほしいです。」

毛塚「市役所をかき回すのではなく、むしろ職員と連携しながらスマートに政策を実行することを意識しています。RPAの際も税の専門の職員に進めてもらったりしていて、スムーズに導入が進みました。新規事業を進めるための自治体運営という観点からは、連携が重要だと実感しています。」

政策案の実現に向けて

私たちが提案した政策には、毛塚副市長からは「つくば市での実現を目指す」という力強いお言葉をいただきました。今後の進捗、また他の政策案につきましては瀧本ゼミのホームページ等で随時発信して参りますので、御覧くだされば幸甚です。
重ねてですが、本企画にご参加下さいました来場者のみなさま、誠にありがとうございました。

(この記事は2018年5月現在の内容です。経済学部所属Hが執筆致しました。)

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