「今の時代にこそ、官僚や専門家に出来ることがある」瀧本哲史先生が語るその真意とは?

今の霞が関は過渡期にある

学生:それでは本日はよろしくお願いします。

瀧本:お願いします。

学生:瀧本先生はTwitter (@ttakimoto) でも様々なことについてコメントされていますが、政策決定システムのなかで、最近、最も関心のあることは何ですか?

瀧本:一般論ですが、日本の戦後を作ってきた霞が関の政策決定システムが急激に変わってきてるってことに気づかない人が多いこと、特にこの変化をを東大文一に行く人の多くが知らないことには驚いています。この背景にあるのは、東京にある、東大にたくさん合格者を輩出しているような高校出身の中で、文一を志望する比率が落ちてきていることにあります。

というのも、周りに政府関係者も多く、情報が豊富な高校生は、もうそこに行ってもしょうがないってこと知っているから。逆に、情報が届かない地方出身者が文一で増えてきている。つまり、喫煙車両にいけば禁煙者が少ないように、それでも文一やさらには法学部に進学する学生は、この変化に気がついていないですね。結果、司法制度改革の迷走もあり、文一から他の学部に進学する「脱法」も増えて、また法学部進学の基準点が下がる傾向に戻りました。さらに追い打ちをかけるように、今回の霞が関の不祥事で省庁の中の省庁であるはずであり大改革を経たはずの財務省の体質が、二十年前の大蔵省接待汚職事件(通称:ノーパンしゃぶしゃぶ事件 1998年に発覚した大蔵省における汚職事件。官僚7人が逮捕者、起訴、有罪。三塚博大蔵大臣と松下康雄日本銀行総裁が引責辞任。自殺者、辞職者も出た。これを機に大蔵省は解体される)で非連続的に改革されたはずなのに、実はあまり変わっていなかったのではないか、という失望感が広がっています。さらにいえば、官僚機構が政治主導の名のもとに振り回されてしまっているという印象を持った人も多いでしょう。そういったニュースに敏感な人は霞が関に行かなくなっている。

学生:他にも法学部の人気が下がっているのか、かつ、官僚人気が下がってきているのがわかる部分ってありますか?

瀧本:例えば、昔はそこまで人気のなかった民間や外資に優秀な層で就職する人が増えてきているってところですね。さらには、一番尖っている人は、起業している。昔は役所か司法試験に進むかがスタンダードでした。それこそ、三年生の秋になると安田講堂前の銀杏並木では「どっちにする?」というのが定番の会話でした。

学生:なるほど。では、もう霞ヶ関は「オワコン」ということで、まとめて良いですか。

瀧本:いや、それは一方的な見方だと思いますし、こういうときにこそ、「逆張り」で考えてみることが大切です。実際の所、今が、霞ヶ関は最安値で、これから官僚にとってやり甲斐がある時代が来るかもしれないです。というのも、現在起きているショックや日本独特のトレンドとは別に世界的な新しいトレンドがあるからです。それは、EBPMという流れですね。世界的に、政策を決めるときに、データ、ロジック、社会実験と行ったエビデンスに基づいて政策を決めていくというのが大きなトレンドになっています。つまり、今後は政策決定が、より実証的、科学的になるので、より専門家が決める時代が来る可能性がある。そうすると、ある意味専門家である官僚にとっては、別の意味で活躍する機会が広がり、状況は好転するのではないかと見ることも可能です。

学生:そこで、少し疑問を持つのですが、ジェネラリストを標榜する霞ヶ関の官僚は本当に専門性があるのでしょか。一体、何の専門家なんでしょうか。

瀧本:うーん、それはとても鋭い指摘ですね。実際のところ、現状の官僚が政策決定のための専門性を持っている、あるいは専門家に必要なトレーニングを受けているといったキャリアパスになっているかは結構疑問です。一時期話題になった、「経産省若手プロジェクト」の資料も全体のストーリーに影響する基本的な前提について、実証データを見れば完全におかしい議論が感覚だけで展開されている部分が散見されます。実際、RIETI(経産省の外郭団体のシンクタンク)に属する研究者から、厳しい突っ込みを受けたとこのプロジェクトのメンバーから聞きました(注:経産省若手プロジェクトと瀧本先生は昨年の一橋大学の文化祭で対談企画を行っている)。留学派遣先を見ても、以前ほどトップスクールに行けなくなっていますね。これは、仕事が忙しすぎて留学準備が出来ない、大学院側も以前ほど日本の官僚を受け入れるメリットがないといった背景があるとは思います。

学生:そうなると、政策決定システムが変わってきても、それを担うのは今の霞ヶ関の官僚でないかも知れないと言うことでしょうか。

瀧本:それは、すでにそうなりつつありますね。官庁が発表している長期ビジョンの資料などがコンサルティング会社やシンクタンクに外注されているのは公然の秘密ですし、注に出所ATKとか残っていて、どこのコンサルティング会社を使っているかが判ってしまうなんてこともあります。しかも、そういうプロジェクトは予算が少ないので、当然、一番優秀な人が投入されているわけでもなさそう、というのも業界関係者なら容易に想像ができます。

学生:つまり、EBPMという流れに対して、今の官僚だけではなく、既存の政策決定システム全体が対応できてないということなんでしょうか。

瀧本:そうですね。なので、この新しい流れを誰が担ってくかは、これからの課題になってくると思います。本来的には、霞ヶ関の官僚が有力候補のはずですが、霞ヶ関の官僚が専門家としてバリューを出せるようにするには、現状の無駄に長い労働時間の見直し、待遇の改善が必要でしょう。さもないと、合理的に考える人は集められませんから。

学生:そういう意味ではつくば市は業務の自動化の実証実験を進めて、付加価値の低い、書類仕事のようなものを八割減らして、その分の稼働を本来の企画的業務にに回すという取り組みをしている(近日中に記事を再公開)そうです。毛塚副市長は、この考え方を省庁のシステムに転用できるんじゃないかってことも仰っていました

今後の政策は学生も考えられる時代に!?

瀧本:そうですね。実際、霞ヶ関でも、若手がイニシアティブをとって、過去の答弁事例を検索して、答弁作成時間を減らしたり、法文の整合性チェックのためのアルゴリズムをつくったり、ITを使った業務の効率化を進めているようです。こうしたトレンドが実際に根付くか、またしても、一時的なガス抜きに終わるのかは、今後注意深く見守る必要があります。ただ、逆にその流れが加速することになって政策決定者が外部の人になるって可能性も充分あります。というのも、先ほど、システム化しようとしていることは、霞ヶ関の「名人芸」「伝統芸能」として、ブラックボックス化されていることによって、政策形成が伝統的な官僚によってのみ担えることの源泉になっているところでもあったからです。

アメリカのシンクタンクモデルみたいに、外部の専門家が実質的に政策を形成する、さらには、シンクタンク同士が競争して、政策形成市場ができる、あるいは、そもそもそういう外部のシンクタンクを通じて、政治家、官僚、学者といった政策決定人材自体の流動性が高まり、頻繁に入れ替わるといったモデルができるかも知れません。そうなってくると、経済、法学にかかわらずより専門性の高い学者が重要な役割を果たすようになるでしょう。現状の審議会によばれる、大御所だけどそこは必ずしも専門でないだろう見たいな学者ではなく、実証研究をしっかりする中堅・若手が発言して変えるっていう流れに変わっていくイメージです。

学生:なるほど。

瀧本:極論すれば政策を考えることは学生でもできます、なぜなら、エビデンスデータというのは非常に素晴らしく、誰が言ったかではなく、何を言ったかという中身の勝負になってくるからです。例えば、「財政赤字が膨らむと経済成長が止まる」という研究のエクセルの間違いを大学院生が指摘して、大騒ぎになったという事件がありました。これは、EUの副作用も大きかった財政管理政策や日本も含めた「財政再建」論の根拠になっている議論なので衝撃も大きかったわけです。こういうことが今後どんどん起こってくると思います。例えば、高度プロフェッショナル制度導入の国会審議で、厚労省が出した裁量労働制の労働時間と一般労働者の労働時間の比較調査の設計がおかしかったと専門家から指摘がでて、政策決定に大きな影響が出そうです。今までだったら、なんとなく多数決で決まっていたと思います。議論をエビデンスベースにすることによって、そういう外部の人でも批判できるようになりましたし、逆に政策提案する方も専門家でなければならないというような流れになっていくでしょう。これは、より良い政策を作るという意味では、傾向は良い傾向だと考えます。

学生:逆に言えば、官僚の人には専門家の研究を目利きする能力だったりとかが求められるんですかね?

瀧本:そうですね。少なくとも、論文のメタ分析や専門家の評価能力がないと官僚の付加価値はないですね。自分たちの仮説をサポートしてくれそうな「権威っぽい」専門家に審議会をさせるというモデルは成り立たなくなるでしょう。

学生:色々な統合ができることが大事だということですね?

瀧本:そうですね。これは、別に私オリジナルの考えではなくて、世界の政策形成の流れなんですけど、これから官僚には法学部出身者よりも経済学部出身者、しかも博士号取得者が増えていく時代が来ると思います。

日本の官僚雇用はアメリカ的になる!?

学生:霞が関の話に関連してアメリカだと官僚になり、そのときは給料が低くてもそれがステータスになって民間に言って給料が上がるといったモデルがありますが、日本もそういうシステムになることはありますか?

瀧本:ありますし、分野によっては、現にそうなってると思います。

学生:中途採用して、何年か勤めて民間に戻るような形に?

瀧本:例えば弁護士ならそうなってますよ。わかりやすい例は、金融庁に短期間出向してまた戻ってくるというな形でです。弁護士や金融行政はある種の超専門職ですし、そういうとこで仕事している。また、最近のIT企業は新しいサービスを実現するために、規制や政策を変える。あるいは、そもそも法制度が全く想定しない空白地帯、グレーゾーンなので積極的に制度を提案する必要があったりします。そう言う会社、わかりやすい例で言うと、グーグル、ヤフー、メルカリとかには、霞ヶ関から大量に人が移動しています。けれども日本の政策マーケットにおいては、まだまだ専門性が低い分野が多いですし、そもそも政策を扱う人に専門性も低いからからそうした流れはまだまだ始まったばかりです。しかしこのままこの状態が続くとは思えない、つまり今後、官僚に関しても専門性が求められる事が起こると思います。そもそもアメリカでは新卒で役所に行かないんですよね。民間から政策提言を行うような人に関しては、PhD取ったような人がシンクタンクに就職したあと、政権交代とともに政権に入ってまた民間に戻るような形になっているんです。

これから求められることとは!?

学生:それではこれから私達に求められることはなんですか?

瀧本:今は世界の変化するスピードがすごく速いですし、不確実性が高い時代でもあります。なので、今日お話ししたことは一つのシナリオでしかなく、それが実現するかも判りません。ただ、一つ言えることは、今のモデルがそのままだと、政策決定システムの空洞化が進むと言うことです。何であれ、新しいモデルが模索されていくでしょう。新しいモデルでは、必要とされるスキルセット、人物像も変わってくる。わかりやすく言うとそこで求められる「賢さ」の定義も変わっていきます。すでに起きている例を言うと、外務省は、試験の変更もありましたが、20年前と必要とされるスキルセット、人物像は明らかに変わっています。それは、外交は日本だけでは決められないので、変化が進む圧力が強かったとも言えるでしょう。その外務省も世紀の変わり目にあり得ないような不祥事を起こし、それを乗り越えて現状があります。

なので、例の通り、私は正解を提示しませんが、皆さんはしっかり勉強をして、高い感度を持ってその流れを見極めていけばその先に求められるものは自ずと見えてくるかと思います。あと、これもいつもと同じですが、様々な学問の基本的なフレームワークは有用ですね。

学生:あー、また、Do your homework! なんですね。でも、その通りだと思いました。

(注:この記事は、2018年の五月祭前に公開された瀧本哲史先生のインタビュー記事です。)
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