医学部生だからこそ見える瀧本ゼミの魅力

本日は瀧本ゼミ政策パート5期生で、慶應大学医学部5年、現在ある行動による糖尿病の疾患リスクについてプロジェクトをゼミで立ち上げたSさんにお話を伺います。
(注:本記事は2016年秋時点での内容となります)

「医学部生が感じたカルチャーショック」

インタビュアー:今日はよろしくお願い致します。

S:よろしくお願い致します。

インタビュアー:Sさんは今年、5期生で入られたという事で、現在ゼミで活動をされていますが、ゼミに入られたきっかけはどういったものがありますか?
医学部生でこのような環境に入ってくるというのは珍しいのではないかと思いますが。

S:2年ほど前に、高校の同級生で、関西の大学の大学の文系の学部に進んだ友人たちと久しぶりに飲む機会がありました。
会ってしばらくは他愛もない話をしていたのですが、途中から将来どうしたいか、というような話になりました。

そこで非常に驚いたんですが、彼らのうち一人は小説家になりたいと言っていて、もう一人は芸術家になりたいと言っていたんですね。
僕はあまり自分の将来ということについて深く考えたことはなくて、二人がすごく自由に自分の将来を考えていることにびっくりしました。
例えば芸術家の方だったら何年にイギリスのどこそこ大学に留学して、帰ってきてどこそこに入って、みたいなキャリアプランを描いていましたね。

他にもその2人と話していて驚いたことはたくさんあって、例えば二人が話していた内容が、「文系の発想と理系の発想とはどう違っていて、両者が組み合わさったらどういうシナジーが得られるのか」とか、当時の自分には非常に衝撃的で覚えていない部分も多々あるのですが、要は非常に哲学的な議論で、これは自分にとってはある種の「カルチャーショック」でした。
今でもその日の体験は印象深く残っています。

インタビュアー:なるほど。そういう体験は医学部の学生生活では余りなかったですか?

S:そうなんです。まず、将来について深く考えたことがなかったということ。
医学部というのはとても変わった学部で、卒業生のほとんどが医師になります。だから、学部の同級生がほぼ全員同業になるということになります。
で、そのような集団の中にいると、どうしても「自分は当然医師になるものだ」という固定観念があって、それ以上深く考えなくなると思うんです。
日常生活の大部分を同じ学部の人と過ごしますからね。
なので、「そうか、探してこなかっただけで他の道もあるんじゃないのかな」というのがまず感じたことです。

もうひとつは、医学部では医学しか学んでこなくて、そもそも哲学なり文学なり学んだことがないなということ。
これは、別に哲学を学んでいたほうが良かったとか、そういう意味ではないんです。
ただ、二人はそれぞれ別の文系の学部にいて、別のバックグラウンドを持っているからこそこういう議論が成り立つんだろうなと思いました。
二人はとても自由に議論していたのですが、その光景が、大学で医学しか学んでこなかった自分にとってはとても新鮮でした。
自分は二人みたいに議論をする土壌というか、そういうことを考えたこともなかったなあと思いました。
それに、二人は私とは全然違った思考のパターンだったので、それもすごく刺激になりました。
同じ事実でも、人によって捉え方が全然違うんだなと思ったんです。

インタビュアー:なるほど。やっぱり違う分野だからこそ、そこから出てくる話題は新鮮で、面白いという事ですか?

S:そうですね。そういう意味で、瀧本ゼミのように、全く違ったバックグラウンドを持つ人が日常的に集まれる場所があることはいいなと思います。
ゼミ生それぞれが異なったスペシャリティを持っているからこそ様々な議論が成り立つと思います。
一応申し上げておくと、医師になるという選択が正しくないとかそういうふうに言うつもりは全くありません。
ただ、他の選択肢が存在していて、その選択肢でもバリューを出せる可能性があるのだったら、他の選択肢も検討してみても良いのではないかという事です。

インタビュアー:なるほど、それで外の分野を求めて、瀧本ゼミに入られたんですね?

S:いや、実はそこからもう一段階あって(笑)。
その後、法曹の資格の勉強をはじめました。
始めた理由は色々あるんですが、ひとつには大学で臨床医になるための勉強をしていて、面白かったのはそうなのですが普通の臨床をやってていいのかな、どういう進路を進めば良いのかなという思いがあったからです。
関西に行った友人たちと話してからですね。

インタビュアー:それは凄い挑戦ですね。先ほどの話を受けてという事は、やっぱり違う分野を学んでみよう、という事ですか?

S:そうですね、それは一つ大きいですが、他の動機としては純粋に法を学んだら楽しそうだなというのもありました。
もとから法学面白話というか、法学関連の、一般的なイメージとは違った事例をいくつか知っていて、それで興味深いなと思っていました。

例えば、民法の条文には「第三者」という文言が数カ所に登場します。
これらは非常にざっくり言うと「登記をしておかないと不動産の取得などを第三者には主張できない」とか、「詐欺にあって物を騙し取られても、事情を知らない転売先の第三者には詐欺に遭ったことを主張できない」といった文脈で用いられています。

ですが、衝撃的なことに、すべての条文で「第三者」の意味が異なっています。
例えば、一番有名な「第三者」は177条の「第三者」ですが、これの意味は判例ベースで「当事者もしくはその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者」のことを指します(大連判 明治41・12・15)。
「第三者」の意味が場所によって異なっていることも驚きでしたが、ひとつひとつをとっても、意味が日常的に使われる第三者の意味とはかけ離れて用いられているということが興味深かったんです。

つまり、何気ない言葉一つでも、定義によって意味が千差万別に受け取れるというところに感銘を受けました。
こういうことを、法学の勉強を始める前から知っていて、それでとてもおもしろそうだと思ったんですね。
実際始めてみたら医学とは全く違う考え方を持つ学問で、非常にためになりました。

インタビュアー:なるほど。どの辺りが医学と法律で違いがありますか?

S:まず、自然科学ではある程度確かな事実がまずベースにあって、そしてその上にも、基本的には誰の目にも正しいロジックが乗っかって、結論ができています。
例えば「肺癌(扁平上皮癌)の大きな原因はタバコである」という(ほぼ)100%正しい事実があり、この上に「曝露物質を減らせばその曝露によって起こる病気が減らせる」というロジックが加わって禁煙キャンペーンになるわけです。

ところが、法律だとまず事実が何かということが問題になる。
さっきの例で言えば、「第三者」とはなんぞや、という話になる。
上の177条の「第三者」の定義も、判例上そうなっていると言うだけで別の学説もありますからね(そもそも判例自体がかつては別の立場を取っており、判例変更によって上のような定義が確立されています)。

そして、ロジックも色々なつけかたがある。
例えば、仮に「教室でものを食べてはいけない」という条文があったとして、「食べてはいけない」だから飲むのは自由だと考えるのは反対解釈、条文の趣旨は「ものを食べると音や匂いが出て迷惑だから」だと考えて、食べるときに匂いや音がでないものなら食べて良いと考えるのが縮小解釈(限定解除)、食べるのがだめなら飲むのもだめだろう、と考えるのが類推解釈です。
このように、ロジックも妥当性がそれぞれあり、優劣がつけにくいロジックが複数成り立ちうるわけです。

今まで基本的には自然科学しか学んでこなかった私ですが、法律を勉強してみて自分の価値観がひっくり返されたような感じがしました。
それと同時に、複数の専門性を持つことの面白さと、専門性が違う人が共通言語で話し合うことの困難さを感じました。
共通言語で話し合うのが難しいというのは、事実やロジックの受け止め方が学問領域によって全く異なっているからですね。
なので、分野が違うとここまで考え方が違うのかと驚いたのは大きかったです。

インタビュアー:そこで、瀧本ゼミのような異分野との繋がりがあるような場所に飛び込んでみようという決定をなさったのですね?

S:そうですね。そういう意味で、瀧本ゼミという環境はとても好きです。
色々な専門性の人がいるから多面的な価値観で物事が見れるし、皆がある程度同じレベルの議論のスキルを持っていることで、異なった専門性の考え方でも共通言語化して話し合うことができているからです。

私がゼミに入ったきっかけに話を戻すと、自分がどう働けば良いのかなと思って、ダブルライセンス(医師免許と弁護士資格をどちらも持っている人)の人に何人か会いに行ったりもしました。
それでも自分がどう働ければ良いのか全然わからなくて、それで、そのダブルライセンスの方を紹介してくれた人が瀧本ゼミをやっているらしいという事で、誘われたのがきっかけでした。

「瀧本ゼミの魅力」

インタビュアー:入ってどうでしたか?

S:面白いから法律の勉強を始めたんですが、ダブルライセンスでどういう仕事をしたいかを自分の中で考えられるようになったと思います。
日々の議論から得られるものもありますし、あとはTゼミが掲げているOSINTのスキルはとても役に立つなと思います。
『イシューからはじめよ』という有名な本がありますが、“「悩む」 =「答えが出ない」という前提のもとに、「考えるフリ」をすること、「考える」=「答えが出る」という前提のもとに、建設的に考えを組み立てること“という一節がありますが、それは本当にその通りだと思います。

振り返ってみれば、瀧本ゼミに入るまでの私は典型的な「悩んでいるだけ」の人間でしたね。
ただ漠然と悩んでいるだけでは、解決策は見えてきません。
分からない事は自分できちんと調べれば分かる、というのはゼミに入って強く実感しましたね。
ダブルライセンスの話とかもまさにその通りで、ファクトを集めて、どう行動するのが正しいのか考えて方針を決定するのが正しいやり方だと思います。
分からないことが分かる、という実例としては今私が調べているイシューもそうですね。

インタビュアー:特に医学部生にとって、入るメリットってどのようなものがありますか?

S:医学系のイシューはまだまだあるな、というのは実感として思います。
つまり、「社会的にはまだあまり知られていないような医学の知見で、社会全体に浸透すれば大きなインパクトがあること」、というのはたくさんあるなあと思いますね。
私が本郷で発表させて頂くイシューもそうです。

他には瀧本ゼミが動いて千葉県で条例ができることになったAEDも、今は誰もが重要だと思っているけどかつては誰も知りませんでした。
他にも、ヒートショックという日本で起こるお風呂での溺死に関して、余り研究はなされていないようですが、年間1万5000人以上もの人がなくなっていて、室温とお風呂の温度差が重要な事から、建築の分野との協力が重要だという事がゼミ生の発表でわかり、これは大変おもしろかったです。

何が言いたいかというと、皆さんの医学知識を動員すれば世の中はもっともっと良くできるということです。
そして、逆説的ですが、医学を知っている人だけがいても世の中良くなりません。
特技がそれぞれ違う人、異なるスペシャリティを持った人が集まっていることが求められます。
Tゼミなら、そういう場を医学部生の皆さんにご提供できるのではないかと考えています。

インタビュアー:ゼミ全体としての魅力を教えてください

S:今まで自分がいた環境と違いすぎていて難しいですね。
一番魅力的だなと思うことを挙げるとするなら、闊達に議論する土壌があるということでしょうか。

これは瀧本ゼミに入ってから知った言葉なのですが、「悪魔の代弁者」という言葉があります。
これは決して悪い意味ではなくて、議論を活発に進めて建設的なものにするために、思ったこと・感じた疑問について率直に、鋭くツッコミを入れてくれる人のことです。
あえて各ゼミ生が別のゼミ生の発表に対して「悪魔の代弁者」になることで、発表する人もきちんとリサーチしないといけなくなるし、聞いている人も真剣に聞かないといけなくなりますよね。
これ、本当は議論をよいものにするためにとても大事なものなわけですが、普通の会議、一般的な議論では残念ながら行われていないですね。

ゼミの議論風景

実生活でこれをやってしまうと軋轢が生まれたり、人間関係が崩壊したり村八分に遭ったりしてしまうわけですがTゼミではそれが許されている、というよりむしろ推奨されていると思います。
それは、発表の疑問点を追及するのは決して発表の人格を攻撃するためではなくて、よりよい発表・よりよい解決策を目指すことに資するためであるという共通認識がゼミ生全員に行き届いているからだと思います。
このような環境でファクトに別の解釈の余地があるのではないか、別のロジックもあり得るのではないかと考えることを訓練できるのが最大のTゼミの魅力かなと思います。

インタビュアー:ゼミ志望者に対して一言お願いします!

S:先程も言いましたが、入るかどうか悩まれている場合には一旦入ってみたら?と思います。
というのは、もしもやめることになっても失うものはないし、ノーリスクだからです。
これは学生の強みだと思います。

これは政策を実現するためにロビイングする時などもそうですよね。
学生であれば、例えば政治家とかにロビイングをしてコケたとしてもノーリスクなわけです。
一方、社会人だとそうは行かないでしょう。会社でやってきたことがコケればそれなりのダメージを喰らいますよね。
会社のプロジェクトじゃなくても、「就業時間外にロビイングしてたんですが大失敗でしたー」となるとなんじゃそりゃって話です。

そういう意味で、いわば何にでも挑戦できる学生というポジションを保てる期間はそんなに長くはないわけです。
僕は5年生になって瀧本ゼミに入り、そのことを若干後悔しているので、皆さんにはぜひ早いうちからTゼミに入っていただき、様々なスキル(武器)を身につけてほしいなと思っております。

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